
伊勢国司・北畠家にも仕えた名家のお屋敷に、昭和を代表する作庭家・重森三玲が作庭した2つのモダンな枯山水庭園。国登録有形文化財&名勝。【通常非公開】
菰野横山邸園(横山氏庭園)について
【通常非公開/ツアー等で特別公開あり】
「菰野横山邸園」(こものよこやまていえん)は三重県菰野町にある国登録文化財の建築と庭園。伊勢国司・北畠家に仕え、江戸時代には菰野藩の代官を務めた名家・横山家が江戸時代に造営したお屋敷で、「横山家住宅」の登録名で主屋・茶室など6棟が国登録有形文化財、昭和の名作庭家・重森三玲により作庭された枯山水庭園が「横山氏庭園」の登録名で国の登録記念物(名勝地関係)。
通常非公開ですが、不定期で公開イベントやツアーでの公開があります。詳しくは施設公式サイトをご覧ください。
三重県に1箇所だけ重森三玲の庭園があるというのは氏の作品一覧を見ながら気になっていたのですが――初めて訪れたのは2017年、これまで非公開だったその庭園(邸宅)がレストラン&ギャラリーとして開かれた事を知った所から。当時訪れた『ちそう菰野』は3年程でクローズとなりましたが、この邸宅・庭園は2020年に国登録有形文化財・登録記念物となり、2026年現在では「庭園」を主体としてときおり特別公開イベントが実施されています。
その歴史について。横山家は伊勢国司・北畠家に仕えたのち、永禄年間(室町時代末期)に菰野へ移住。江戸時代には菰野藩に仕えて当地の代官を務め、また明治時代に村長、大正時代には衆議院議員にも選出された医師・横山一格も輩出した名家。
建築について。6棟の国登録有形文化財(正門/主屋/書院及び渡廊下/旧診療所/茶室/土蔵)のうち、正門・主屋が江戸時代後期の建築。純和風建築が中心ですが、明治時代に建立された「旧診療所」は外観は蔵造りながらどこか洋風のレトロ建築、主屋のガラス戸も洋風の“近代和風建築”といった雰囲気。
主屋・書院を挟んで南北に2つのお庭(前庭、茶室の露地を含めると4つのお庭)があります。冒頭に記載の通り昭和を代表する作庭家・重森三玲によるもので、1968年(昭和43年)。現在のご当主・横山陽二さんの祖父・横山秀吉さんが直接三玲さんを尋ねて依頼し、その熱意に押され作られたという庭園。(常時公開ではありませんが)氏が手がけた「個人邸の庭園」で一般公開される機会のあるものとしては数少ない貴重な作品。
■前庭
よくお手入れされたイヌマキがずらりと並ぶ、いかにも歴史あるお屋敷を感じさせるアプローチ…から正門をくぐって直線的(だけど全て模様が異なる)石畳とその周囲の白砂から一気に「重森三玲ワールド」に!
■表庭
主屋・書院の南側、そして庭門の先に広がる枯山水庭園。重森三玲の昨日の中には“日本最大の石庭”と称された『興禅寺庭園』等の大規模な枯山水庭園は他にもありますが、個人邸の枯山水庭園でこれだけ広大なものは(公開される機会があるものの中では)他に無い規模…!
その広い敷地を贅沢に使った枯山水、白砂で大海を表し、苔で表現した幾つかの中島や氏の代名詞とも言える阿波の青石もふんだんに用いられ、“蓬莱神仙世界”を表現。(大海を浮かぶ“舟石”も分かりやすい見た目)
施主からは「心字形の庭」というリクエストがあった――らしく、航空写真を見ると確かに「心」の字を少し崩したデザインにもなっている。(同じく心の字を描いた京都『光清寺庭園』との対比で見ても面白い)
平面的に見ていてもめちゃくちゃカッコいいのですが、庭門側から見たときの御在所山、主屋側から見たときの正面の山(廣幡神社の社叢)の借景も素晴らしく、庭園のスケールをより大きく見せています。
■裏庭
おおらかな雰囲気のあった表庭と雰囲気が一変、よりスタイリッシュな石庭が裏庭――赤いモルタルでストライプの斜線を引き、その間には紅・白の砂。それに食い込むように描かれた波の模様の石畳、それらの斜線・曲線に対して90度に組まれた竹垣(四つ目垣)。とても自由な発想に思えるこのお庭、実はモチーフは「電車(近鉄湯の山線)から見えた菰野の田畑の風景」なのだとか…!
そのモチーフも、そのモチーフからのこのモダンな庭園というのも、すごすぎる。重森三玲の前衛的な部分が好きな方は「こちらの方が良い」という方もいるかもしれませんね。
■茶室「尽日庵」の露地
表庭の西側にあるお茶室「尽日庵」は元々は名古屋市にあったもので、庭園の作庭と同じ1968年にこの地へと移築。名古屋の茶道流派「吉田生風庵」の2代目・吉田紹敬宗匠による設計(※移築は昭和年代ですが、宗匠の時代から江戸時代末期~明治時代のお茶室)。吉田生風庵の宗匠ゆかりの起こし絵の残る文化財建築としては名古屋の『竹田嘉兵衛商店』も。
ちなみに、菰野町の中心駅は隣の「菰野駅」。古い町並み「巡見街道」沿いには寺社仏閣も多く、中には三玲さんと同時代に活躍された俳人・山口誓子の句碑のある寺院も。そして町の西側は湯の山温泉郷が広がり、多くの陶芸家の窯元や人気ホテル「アクアイグニス」もあります。重森三玲庭園と共に、菰野の町も観光してみて。
(2017年12月、2025年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
投稿者プロフィール

- Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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