六華苑(旧諸戸氏庭園)

Rokkaen Garden, Kuwana, Mie

近代日本の建築に多大な影響を与えたジョサイア・コンドルが手掛け、東京以外で唯一残る近代建築と、洋館も映える国指定文化財の日本庭園。

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六華苑(旧諸戸氏庭園)について

「六華苑」(ろっかえん)は三重・桑名にあるのお屋敷と庭園。そのうち洋館は明治時代以降の日本人建築家に多大な影響を与えたジョサイア・コンドルによる設計で、ほぼ東京にのみ建築が残るコンドルの東京以外の地方に残る貴重な近代建築。
和館も洋館とともに「旧諸戸家住宅」として重要文化財、庭園が「旧諸戸氏庭園」として国指定文化財()となっています。

これまで何度か訪れていますが2022年6月に約4年半ぶりに訪れたのでその際の写真を中心に紹介。

“山林王”と呼ばれた実業家・二代目諸戸清六の邸宅として明治時代末期に着工、1913年(大正2年)に竣工した六華苑(旧諸戸家住宅)。

諸戸家は江戸時代には長良川〜長島〜木曽川を挟んで対岸の「加路戸」の新田を開発し庄屋をつとめた旧家/大地主でしたが、二代目諸戸清六の祖父の代で事業に失敗しその地位を失います。
しかし明治時代に先代の諸戸清六が再び事業で成功。桑名に本邸(現在の『諸戸氏庭園』)を構え、私財を投じて桑名市内に上水道「諸戸水道」を建設し市民に開放するなど桑名の町の発展に貢献。(邸宅の周辺のレンガの水路がその面影を感じさせます)

本邸は二代目諸戸清六の兄・清太が継ぎ、その北の隣接地に建てられたのが現在の六華苑。『旧岩崎邸』『旧古河庭園』、鹿鳴館やニコライ堂など東京を代表する洋館・洋風建築を複数残しているジョサイア・コンドル。
氏が日本で首都圏以外で手掛けたのがこの六華苑…一体なぜ?という感じなのだけれど、諸戸家は初代から三菱財閥・岩崎弥太郎とビジネス上の繋がりが深かったようなのでその関連かな。

4階まである塔屋が印象的な木造洋館で、東京の岩崎邸・古河邸・島津邸の重厚な色使いとはまた異なるライトブルーの外観が好き!(ちなみに鎌倉にも二代目諸戸清六の別邸だった洋館が残るけど、あちらもポップな色使いだった)

そして六華苑は洋館と一体化して並ぶ和館もほぼ同時期の竣工で国の重要文化財。大工棟梁は伊藤末次郎で、隣接する『諸戸氏庭園』の御殿も手掛けられいます。中庭(内庭)を挟んだ先には離れや美濃・高須藩の御殿の一部を移築した「旧高須御殿」などもあります。(三重県指定有形文化財)

約18,000平方メートルの広大な敷地の大部分を占めるのが庭園で、洋館・和館の目の前に広がる芝生〜庭園はこの2つが竣工当初に作庭されたもので、和館の北側の内庭は昭和の初期に名古屋の茶人・松尾宗吾の監修により茶室の露地庭として作庭されたもの。池泉庭園の対岸からはリフレクションする洋館の姿も楽しめます。

歴史的な洋館の前に広がる日本庭園…としては日本国内で公開されている中では(東京の旧古河邸あたりと並んで)最大規模。なお当初は主庭園の東部(洋館から見て左手)の現在芝生広場と和風庭園の一部(流れ)となっている付近にはコンドルの設計による洋式庭園があったとか。(昭和年代に改修)

日本庭園にはコンドルの関与は記録されていないようだけど、コンドル自身は日本庭園に関する本(“Landscape Gardening in Japan”)を残しているし、多少なりとも意向が入っていたりするのかも?(しないかも?)
あと『諸戸氏庭園』を手掛けている近代の作庭家・がジョサイア・コンドルと協働していたと論文『近代的庭園デザイナー・小平義近とその作品(粟野 隆)』にあり、作風的にもこの方の関与も気になる所。

この貴重な建築・庭園は平成のはじめに諸戸家から桑名市の所有となり、修復を経て一般公開を開始。隣接する本邸は『諸戸氏庭園』、それより新しい六華苑が『旧諸戸氏庭園』という文化財指定名なのはそれが理由。東海地方で随一の洋館と庭園、ぜひ訪れてみて。

(2015年5月、2017年11月、2022年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR関西本線/近鉄名古屋線/養老鉄道/三岐鉄道 桑名駅より徒歩15分(くにレンタサイクルあり)
桑名駅より路線バス「末広町」バス停下車 徒歩8分

〒511-0009 三重県桑名市桑名663-5 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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