廣澤美術館“つくは野の庭”

Hirosawa Art Museum Garden, Chikusei, Ibaraki

“東の足立美術館”へ。2021年に開館した隈研吾の美術館×造園家・宮城俊作、齋藤忠一が作庭の現代日本庭園。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

ザ・ヒロサワ・シティ/廣澤美術館について

「廣澤美術館」(ひろさわびじゅつかん)は2021年1月に茨城県の西部・筑西市の郊外に開館した私設美術館。その建築を世界的建築家・隈研吾が手がけるほか、敷地大部分を占める本格的日本庭園は現代の作庭家・齋藤忠一宮城俊作(プレイスメディア)が手がけています。

2021年10月に2年ぶり、コロナ以降では初めて北関東の地を訪れました。その中で最も行きたかった場所の一つがこちら。今年の初めにCasa BRUTUSの投稿で知って、こんな場所が出来たの!?と思って…。

隈研吾さんについては言わずもがな、宮城俊作・プレイスメディアは京都の『新風館・エースホテル』など他の隈建築でもタッグを組んでいるのだけど、そこに斎藤忠一さんが名を連ねたことに驚いた。
かの重森三玲に師事した作庭家、これまで徳島県の『本楽寺庭園』は当サイトでも絶賛しているけれど、今回は更にそれよりもスケールが大きな庭園。この美術館のキャッチコピー『石が主役の美術館』は斎藤忠一さんが果たしている役割が大きいのではと思う。

まずこの美術館のある『ザ・ヒロサワ・シティ』について。水戸線・下館駅から約5kmの場所にある、自然・健康・文化をテーマにした“総合レジャー施設”。
大部分を占めるのはゴルフ場ですが、近年は美術館の他にもMTBや四駆のオフロードコース、クラシックカーミュージアム、新幹線の車両などもあるレールパーク、航空博物館、農園、ロッジなどなど…まさに総合テーマパーク。その関係で美術館の前にもクラシックカーがある(笑)

アート系だけでも、美術館から道を挟んでアート・カフェ、分館、アトリエ、『石の美術館』などがあり、廣澤美術館の範囲だけでも2時間ぐらいは平気で居られそうな感じ。
美術館としては横山大観や地元出身の日本画家・板谷波山などの日本画、レオナール・フジタジョルジュ・ルオー、ベルナール・ビュッフェ、梅原龍三郎などの洋画家の作品を所蔵、展示しています。

空中から見て手裏剣のようなデルタ型をした美術館を囲んで、前庭“寂(しじま)の庭”、芝生と彫刻作品が主体の“炎(ほむら)の庭”(以上2つが宮城俊作作庭)、そして主庭“浄(きよら)の庭”(斎藤忠一作庭)と3つの庭園があり、その全体を“つくは野の庭”と称します。命名は国文学者・中西進。

木材を主体的に見せる隈建築はこれまでも“ランドスケープ”との相性は良いと思っていた(から好きだ)けど、今回ほど石組含めた大規模な日本庭園とのタッグは国内では初めてかなーって印象がある(海外では『ポートランド日本庭園』があるし、石の建築としては同じく最近オープンした『角川武蔵野ミュージアム』があるけど)。

隈研吾の建築を“消す”ように積み上げられた庭石たち、これはオーナーの広沢グループ(茨城県内の有力企業)・広沢清会長が長年にわたり全国各地から集めたもので、その総数は1500個、約6000トン!
筑波平野という立地で、起伏がない中で建築そのものを斜面として庭園の石組を見せているというのが秀逸。美術館・隈建築自体が庭園の一部のパーツという風になっている(と庭園目線で見ると思う)。

師・重森三玲の庭園のような大きな砂紋の描かれた“浄の庭”の石庭空間と美術館の間にある直線的な水盤の意匠も現代的で良い。この日は残念ながら薄曇りだったので空や風景のリフレクションは味わえなかったけど、晴れていたら青空や庭園のリフレクションが味わえるんじゃないかなあ…。
険しさを感じる石庭と、水鏡を経て美術館のテラスにはソファー席があって。現世と来世みたいな。(*実際は石庭の中においてその世界が表現されている)

尚、作庭家の方々のみならず、美術館正門の左官は国指定名勝『江馬氏館跡庭園(史跡 江馬氏館跡公園)』の時に名を挙げた左官工・挾土秀平さん。エレファントカシマシ・宮本浩次さんとの対談も記憶に新しい。
数多くの名クリエイターが関わっている新美術館——まだ出来たばかりなので“名庭園”という言葉は使えないけれど、なかなか大規模な日本庭園は生まれづらい時代。“東の足立美術館”となる期待を込めて。

なお週末は駅から美術館前までコミュニティバスが出ています。Googleマップではその時刻表が反映されていないので「公共交通機関ないのかな…」と思って、自分は駅前でレンタサイクル(シェアサイクル「HELLO CYCLING」)をしたけれど。平坦なので自転車も便利ですよ。

(2021年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR水戸線 下館駅より約4.5km(駅前にレンタサイクルあり)
下館駅より筑西市コミュニティバス「廣澤美術館」バス停下車すぐ(土休日のみ)

〒308-0813 茨城県筑西市大塚599-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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