江馬氏館跡庭園(史跡 江馬氏館跡公園)

Former Site of the Ema Clan Estate, Hida, Gifu

“カミオカンデ”の街の日本庭園は、室町~戦国時代に飛騨神岡を治めた江馬家の屋敷跡の庭園。国指定名勝。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

江馬氏館跡庭園(史跡 江馬氏館跡公園)について

【冬季は休園】
「江馬氏館跡庭園」(えましやかたあとていえん)は室町時代~戦国時代に北飛騨地方を治めていた戦国大名・江馬氏の居館跡に残る庭園。
昭和年代に「江馬氏城館跡」として国指定史跡となり(こちらはその他の山城も含まれる)、2017年に新たに国指定名勝となりました。復元された館の“会所”とともに「史跡 江馬氏館跡公園」として公開されています。

国指定名勝になった頃から「これ、(公共交通機関で)どうやって行ったらいいんだ…?」と内心思っていた場所。飛騨高山や飛騨古川よりも実は『富山方面からの方がアクセスしやすい』(直通バスがある)ということを今回地元の方にフォローしていただいた上で、2021年6月に初めて訪れました!
(なお庭園の周囲から館へ向けた写真も複数紹介しておりますが、今回は特別に許可をいただいて撮影したもので通常は庭園には立ち入れません。ご留意を。)

映画『君の名は。』の聖地として一躍脚光を浴びた飛騨市。その中心・飛騨古川からは約30km離れた場所にあるのが“飛騨神岡”
これどうやって行くんだ…?と思っていたこの町。現代においては梶田隆章さんがノーベル物理学賞を受賞する研究の場となった“スーパーカミオカンデ”、近代には神岡鉱山で発展。で、更にその以前の中世には桓武平氏をルーツとする江馬家が治めた城下町でした。

戦国時代の当主・江馬輝盛は川中島で争った上杉謙信武田信玄、そして美濃の織田信長の間で板挟みに。1582年、本能寺の変で信長が亡くなった後、三木自綱(姉小路頼綱)に敗戦し討ち死に。
その息子・江馬時政は飛騨高山藩主・金森可重に仕え、金森によって飛騨統一が果たされますが、旧領が江馬氏の手に戻ることはなく時政も金森家によって討たれ滅亡。なお、江馬輝盛の娘は金森可重に嫁ぎ、茶人・金森宗和の弟・金森重勝を産みました。

江馬家が滅ぼされた後~現代に至るまで約400年間は水田となっていたこの館一帯。
現在の庭園で見られるいくつかの立石だけ地面から顔を出し、その存在は“江馬の殿様の庭石「五ヶ石」”として伝承。ほんまかいなってことで1980年代に発掘調査が行われた結果、見事に庭園と武家屋敷の遺構が広範囲に渡り見つかりました。地域名が“殿”として伝わってきていた、というのもまた面白い。

そして現在の姿は平成年代、2000年以降に修復・復元が行われた後の姿。その復元に至る中でのポリシー等については関連記事にリンクした奈文研にアップされている資料(合計で100MBぐらいある!)を見ていただくとして、その特徴はお屋敷の一部、板葺の“会所”が研究結果を下に復元されていること。(その他、主門や塀、堀が復元)

室町~戦国期の武将の屋敷跡に残された庭園としては、『一乗谷朝倉氏庭園』を筆頭に、同じ岐阜の『東氏館跡庭園』、滋賀で『旧秀隣寺庭園』(足利家&細川家)などがありますが、“館から眺める庭園”が再現され味わえるのはこの江馬館跡のみ。実はけっこうそこに意味があって、このごく近年に復元された会所も国指定名勝に含まれている。

「屋敷の存在が肝で、だけど屋敷自体は文化財指定受けていない」みたいな例は他にもあるけど(代表的な例は『偕楽園』の好文亭とか)、2000年代の例は珍しい??

その庭園のスタイルは前述の朝倉氏、東氏、秀隣寺の庭園などとよく似た、ゆるい築山・浅い池を中心に据え、その周囲を無骨な護岸石を見せる庭園。ただこの庭園は当初から枯池式の庭園だったと推定されているそう。 なんといっても飛騨の山々の開放的な借景がこの庭園の素晴らしいポイント。

そして前述の庭園と比べても庭石・立石が大きいものが多いのは、山のすぐそばであること、そして神岡鉱山が本格的に稼働し始めるのは金森家が治めた江戸時代からだけど、採掘自体はもっと古くから始まっていたこと――石の採掘・運搬に対する技術が優れていたことが背景にあるのかも。

そして個人的にすごく良いなあと思ったのは、屋敷を囲む塀は飛騨高山の左官職人・挾土秀平(職人社秀平組)が手掛けられているということ。洞爺湖サミット…とか、ペニンシュラ東京…とか国内外の施設名を挙げるよりも、エレファントカシマシ・宮本浩次さんが選んだ対談相手というのが記憶に新しい。
もちろんこういう文化財という場においては独創性を見せられるわけではないけど、そのような現代の名工が携わって復元されたという記録が、この庭園が100年・200年と残った先でまた新たな価値を生み出すかもしれない。

復元された“会所”を活用し、庭園をライトアップして地元レストランのフランス料理を楽しむイベントなどを開催したり、またフォトウエディングなどにも対応可能されているとのこと。

スーパーカミオカンデの内部が体験できる“カミオカラボ”からも徒歩5分ほど。カミオカラボすごかったので庭園ファンにもカミオカラボ味わってほしいし、そしてカミオカラボに来られた方は庭園も味わってほしい!

(2021年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR北陸新幹線 富山駅より特急バス/JR高山本線 猪谷駅より路線バス「道の駅 スカイドーム神岡」バス停下車 徒歩4分
富山からの特急バスは⇒こちら

〒506-1121 岐阜県飛騨市神岡町殿573-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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