春日大社貴賓館庭園

Kasuga Taisha Shrine Kihinkan Garden, Nara

平城京の時代から続く奈良を代表する世界遺産の神社に、名作庭家・重森三玲が作庭した2つのモダンな枯山水庭園。氏の初期作品が近年奈良県指定名勝に!【通常非公開】

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春日大社貴賓館庭園“三方正面七五三磐境の庭”/“稲妻遣水の庭”について

【庭園は通常非公開】
「春日大社」(かすがたいしゃ)は世界遺産“古都奈良の文化財”にも登録されている、奈良県奈良市の代表的な神社。全国に約3,000社ある『春日神社』の総本社で、「本社本殿」が国宝、その他の27棟の建造物が国指定重要文化財。そして通常非公開の大正時代の近代和風建築「貴賓館」に昭和時代を代表する作庭家・重森三玲による枯山水庭園「三方正面七五三磐境の庭」と「稲妻遣水の庭」があります。2023年には令和4年度の奈良県指定文化財(奈良県指定名勝)に新たに選定。

通常非公開の「貴賓館」とその庭園ですが、旅行各社を窓口として年に数回特別拝観があります。毎年実施されている奈良観光ビューローの「奈良体験.com」を関連サイトにリンク。2021年に初めて拝観、2026年に再訪したので改めて紹介。

その歴史について。奈良時代、古くから“神山”とされた御蓋山(春日山)に平城京の鎮護のため武甕槌命(タケミカヅチノミコト)を鹿島神宮から祀ったのがそのはじまり。768年に山の麓に称徳天皇の勅命により社殿を造営。都が長岡京~平安京と遷された後も皇族・貴族から信仰され(藤原氏の氏神でもあり、社紋は下がり藤)、20年に一度の式年造替も約1300年の歴史の中で60回以上執り行われ、“春日造”の社殿を現代へとその姿を伝えます。

武家の時代になると春日信仰はより一般にも広まり、全国各地に分社が建立。国宝「御本殿」の特別参拝ルートで数多く吊るされている“釣燈籠”には、戦国武将・藤堂高虎直江兼続、江戸幕府五代目将軍・徳川綱吉らにより奉納されたものも。その御本殿の中央にある白砂の“斎庭”は“林檎の庭”と呼ばれます。

国宝「御本殿」の特別参拝は(ほぼ)年間を通じて可能ですが、一年のうち数日、旅行会社を通じて実施されるのが《貴賓館及び重森三玲の庭園特別公開》。本殿からやや下った場所にある貴賓館は1926年(大正15年)に建立された近代和風建築で、奈良県指定有形文化財。

その貴賓室に、昭和を代表する作庭家・重森三玲が手掛けた2つの庭園「三方正面七五三磐境の庭」と「稲妻遣水の庭」が残ります(貴賓館は当初は社務所として建築されたので、重森三玲の書籍によっては『春日大社社務所庭園』という名称となっている事も)。
今日ではその情報から「名作庭家が、名社に手掛けた庭園」…と捉えられるけど、実はこれらの庭園は出世作となる京都『東福寺本坊庭園』より以前に手がけられた「重森三玲の最初期の作品」(通算で5作目と7作目)。しかもそれ以前の作品は個人邸のみなので《由緒ある神社仏閣》としては最初の作品、それがいきなり春日大社…!そのきっかけは三玲が取り組んでいた日本庭園の研究と「日本庭園史図鑑」。当時の宮司さんの指名で、「神社には寺院ほどの本格的世界観を持つ庭園が存在しないな…」的なニュアンスの分析をしていた三玲さんが「神道思想の名庭園」に取り組むことになりました。

■三方正面七五三磐境の庭(1934年)
コの字型に建てられた貴賓館(旧社務所)の中庭として作庭された主庭園。その名の通り、コの字の三方向どこから眺めても正面となるよう、そしてしめ縄になぞらえた“七・五・三”の配石となるように石組がされた枯山水庭園。またその石の数は春日神社の主祭神や摂社・末社の数にも照らし合わされ、植栽も摂社にちなんだものが選ばれ、そして御蓋山の奥社を拝む為でもある、まさに「春日大社の世界が表現されたお庭」。

でも、その様な意味・説明がなくとも直感的に「わ、かっこいい」と感じられるのがやはり重森三玲の凄さ。この庭園の特徴と言えるのが、苔と白砂を直線的に(かつ斜線で)区分けする作風。かっこよさはもちろんだけど、最初期の作品、かついきなりの超大型クライアントに対してこの斬新なデザインを実現しているのがすごい…。春日大社に所蔵されている重森三玲自筆の作庭記には《超自然的》そして《近代芸術》というワードが記されているのだとか。これはまだ“作庭家・重森三玲”ではなく、前衛華道家など“芸術家・重森三玲”としての“庭”を題材とした作品だったのかもしれない。

■稲妻遣水の庭(1937年)
中庭から書院を挟んで貴賓館の北側の横長のスペースにあるのが稲妻遣水の庭。奈良時代~平安時代の伝統的な庭園/寝殿造の園池に水を引き込むための“遣水”を直線的に抽象的に表現した作品で、流れの側面にはコンクリートを使用。後の“重森三玲らしさ”に繋がるデザインはこの頃には生み出されていた。また「稲妻」というモチーフは、春日大社には龍神信仰のお社も多く鎮座しているから…なのだとか。なお、当初はこの稲妻形の中に水を流していたそうですが、素材の劣化に配慮して現在は水は流さず枯山水タイプとして維持管理されているそう。

なおこれらの庭園をパートナーとして作庭を行った庭師・川崎順一郎(川崎幸次郎)松下幸之助の御用達庭師としても知られ、三玲さんの作品では大阪の『西山氏庭園』を共に手がけています。

これら2つの庭園も割と近年(平成年代半ば)までは荒廃していたそうで、2008年の天皇・皇后両陛下が春日大社を御参拝されるにあたり、こちらの庭園も修復されたのだとか。その大きな参考となったのが、古写真に加えて先述の春日大社所蔵の「作庭記」。
特別拝観の際は、修復を担当された神職さんが“重森三玲マニア”のごとく色々お話ししてくださるのですが、三玲さんの庭を引き継いでいる方は「重森ファン」となっている事が多く、それはやはり作品の素晴らしさは勿論、三玲さん自身が文章・言葉を残し、当時の方法(出版)で積極的に発信し、後世を生きる人々でも追体験できる/リーチできる事も大きいのだと思います。きっと現代を生きていたらSNSで全方位に発信されていたんじゃないかな…。ぜひいつか特別拝観に参加してみて。

(2021年9月、2026年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR奈良駅・近鉄奈良駅より路線バス「春日大社本殿」バス停下車
近鉄奈良線 近鉄奈良駅より約2km(徒歩25分)
JR関西本線 奈良駅より約3km(徒歩35分)
*「二之鳥居」前に駐輪場&シェアサイクルのポートあり

〒630-8212 奈良県奈良市春日野町160 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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