
世界遺産・天龍寺の御用達庭師もつとめた昭和/平成の京都の名匠・曽根三郎が作庭の"ホテル全体が日本庭園"な温泉宿。北原白秋/巖谷小波ら文人ゆかり。
舌切雀のお宿 磯部ガーデン庭園について
「舌切雀のお宿 磯部ガーデン」(したきりすずめのおやど いそべがーでん)は群馬県安中市・磯部温泉にあるホテル/旅館。京都の世界遺産『天龍寺』などの大寺院の御用達庭師・曽根三郎(曽根造園)が平成時代初期に作庭した枯山水庭園「八方観の庭」や、天龍寺管長により命名された茶室「清流庵」があります。
「八方観の庭」以外にもホテルの各所に池泉庭や枯山水の配された、ホテル全体が一つの回遊式庭園の様な作りになっていて…写真を選ぶのが悩ましかった!
数多くの名湯のある温泉県・群馬。その中でも電車でアクセスし易いのが「磯部温泉」。すぐそばを旧・中山道が通り(宿場町ではありませんが)江戸時代から多くの旅人や湯治客が訪れ、“温泉マークの発祥の温泉地”とも言われます。
この「磯部ガーデン」の創業家は江戸時代にはこの地域の庄屋をつとめ、近代以降も磯部温泉の開発を牽引した地域の名家で、前身の温泉旅館を営む以前から中山道を行き来する要人や文人墨客の宿泊所となっていたそう。近代の詩人・大手拓次の生家でもあり、その縁から北原白秋、萩原朔太郎らも宿泊し、彼らの作品も残されています。その他にも高村光雲、中村不折の作品も。(あと縁ではないかもだけどベルナール・ビュフェの作品も数点展示)
磯部温泉、そして磯部ガーデンの施設名についているもう一つの発祥/伝説がおとぎ話の「舌切雀」。舌切り雀自体は江戸時代以前から日本で伝わってきた伝承ですが、磯部ガーデンの創業家には雀の舌を切ったと伝わるはさみやつづら、舌切雀絵巻など、物語ゆかりの品々が伝わり、先述の芸術家の作品とともに宝物殿に展示。明治時代の文豪/児童文学者・巖谷小波が磯部ガーデンの前身となる旅館に逗留した折に『日本昔噺』を書き上げ、磯部温泉が「舌切雀伝説の発祥の地」と伝えました。館内には巖谷小波の詠んだ《竹の春 雀千代ふる お宿かな》の句碑も。
…と宿の紹介を色々書きましたが、知ったきっかけの庭園について。宿がリニューアルされた1989年(平成元年)、京都の世界遺産『天龍寺』や国宝寺院『東福寺』、『妙心寺』など京都を代表する寺院の御用達庭師・曽根造園の曽根三郎さんによる作庭(翌年の1990年 大阪花博「花の万博」では頭領)。冒頭にも書きましたが、主庭園だけでなくホテル全体で名庭師による庭園が見られます。(※写真掲載無しだけど露天風呂にも庭園がある)
主庭園が一階部分にある「八方観の庭」。このお庭を囲むように建築が建てられていて、廊下/回廊のそれぞれの視点から楽しめる枯山水庭園。(ちなみに1階ロビーの庭園前の大窓も和洋折衷なデザインでかっこいい。)
こちらは舌切雀にちなんだ、モウソウチクを主体とした植栽のお庭。手前のロビーから見て、最奥には群馬の銘石・三波石の青石を用いた枯滝石組が配され、そこから手前の手水鉢まで白砂の流れがつたってくる巨大な枯山水庭園。廊下をぐるっとまわると、直近でこの石組が見られるのですが、逆側から見ても「こちら側が正面か」と感じられるように組まれています。
ロビーの左手側の廊下にはまた印象が変わり、池泉庭園がもうけられています(※訪れた時は水は溜まっていなかったけれど)。この池泉庭は中庭で完結せず、建物内にある池泉庭へと繋がるようなデザインに。京都『桂離宮』のオマージュのように岬灯籠が置かれています。
「四方」ではなく「八方」なのは各階からも上部から眺められるから。5階以上の客室フロアからは、庭園・建築の目線の先に「上毛三山」の姿をのぞむ。現代の借景。
さらに、館内も各所「京都」が感じられるデザインになっています。1階吹き抜けには『桂離宮』の松琴亭をオマージュした薄青と白の市松模様。
2階の吹き抜けには白砂の美しい石庭、庭石に見えるものは擬石のようだけど、それでも「安っぽく見えない」のはやはり名匠の技、デザインセンス。4階部分には料亭「月代」があり、こちらの前にもやはり枯山水庭園があります。
曽根三郎さんのお庭は、決して「重森三玲っぽく」はないのだけれど、それでも360度すべてが正面…それだけじゃなく上空からの視点…また一階の池泉庭の洲浜の作りなど、生きた時代が重なり、同じ京都の臨済宗寺院に出入りしていた方として、多少なりとも影響…が感じられる所があるなぁ…と、これまであまり思ったことがなかったのですが、この『磯部ガーデン』のお庭を見ていて感じた。(でも、決して「重森風」ではない!)
ちなみにホテルのロビーには四畳半の茶室「清流庵」があり、その命名も曽根さんとのご縁からか天龍寺管長により命名されています。またホテルのフロント前には『舌切雀神社』も。温泉も◎なのですが、館内をぐるぐる回るだけでも庭園好きならかなり楽しめるホテル…!庭園ファンは一度訪れてみて。
(2025年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
投稿者プロフィール

- Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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