“畠山記念館”が名前を変えて復活!国宝も多く所蔵する美術館を開いた数奇者・畠山一清が自邸に建立した茶室群に、新進気鋭の建築集団が新たに手掛けた庭園。
荏原 畠山美術館(旧畠山一清邸)庭園について
「荏原 畠山美術館」(えばら はたけやまびじゅつかん)は昭和の実業家/茶人・畠山一清の邸宅『般若苑』内に開かれた私立美術館。以前(2019年まで)は『畠山記念館』の名で公開されていましたが、2024年秋にリニューアルし新たな名前で公開が再開されました。庭園内にある旧宅/茶室の計5棟が『旧畠山一清邸 翠庵・明月軒・沙那庵・浄楽亭・毘沙門堂』として港区指定有形文化財。また、庭園のリニューアルを国際的な建築デザイン集団「KunstWet」が、新館の基本設計を世界的な現代美術家・杉本博司が主宰する「新素材研究所」が手掛けています。
東証プライム上場企業「荏原製作所」は国内トップシェアをほこるポンプメーカーで、創業は大正時代という老舗企業でもあります。創業者・畠山一清は近代の有力な実業家兼茶人・益田鈍翁や原三溪とも交友が深く彼らの系譜を継ぎ、茶人として“即翁”の号を名乗りました。
そんな氏がコレクションした美術品を広く公開するために1964年(昭和39年)に開館したのがこの美術館。日本・東アジアの美術工芸品から前述の二人から引き継いだ茶道具まで、国宝6件、国指定重要文化財33件(2024年時点)を含む約1,300点の美術工芸品を所蔵し、各種企画展が開催されています(2021年には京都国立博物館でも特別展『畠山記念館の名品』が開催)。また氏の出身地、石川県/加賀藩の能楽の文化を残し伝えるべく、能面・能装束の展示が充実しているのが特長の一つ。(能登の守護大名・畠山氏の血筋を継ぐ…とか)
地下鉄・白金台と高輪台の間の傾斜地に位置するこの美術館。江戸時代には薩摩藩主・島津家の別邸が置かれ、明治時代には薩摩藩出身で外務大臣も務めた寺島宗則伯爵の邸宅地に。寺島邸だった時代には明治天皇も訪れ、戦前には国指定史跡『明治天皇聖蹟』を構成する一つにもなり、現在も『明治天皇行幸所寺島邸』の石碑が残ります。
1937年(昭和12年)に畠山一清が購入。奈良『般若寺』の遺構や「金沢は横山で持つ」と言われた加賀藩家老・横山男爵家(→『石川国際交流サロン』)から能舞台が移築。東京/京都で多くの茶室を手掛けている名数寄屋大工・木村清兵衛による茶室も新築され、自邸『般若苑』が造営されました。(尚、畠山一清+木村清兵衛の茶室は京都の世界遺産『高山寺』にもあります)
現在の美術館の本館・新館と並ぶ和風建築が『明月軒』(最も大きな座敷)、『翠庵』、『沙那庵』。園内の北側に別途建つのが『浄楽亭』、『毘沙門堂』(畠山が入手した京都『毘沙門堂』由来の重文の茶器にちなむ?)。美術館開館と同時期に建てられた浄楽亭以外は昭和時代初期の建築。
そして畠山の晩年、自らの設計で開館したのが『畠山記念館』(現在の本館)。先に挙げた茶室の他に、館内(展示室内)にも『月庵』という名の茶室と露地があります。
建物内をのぞけば、敷地全体が一つの庭園と言った形(敷地の案内図も「苑内案内図とあるし)なのですが、エリアを分けるとすると、
(1)明月軒・翠庵・沙那庵を繋ぐ茶庭風の庭園
(2)毘沙門堂・浄楽亭の周囲の露地庭
(3)2024年、リニューアルされた枯流れのある庭園
の3つ。(あとここでは紹介せずですが、新館には新たな苔庭も)
武蔵野崖線の地形と自然の植栽を残す園内に登場した2つの水盤(特に正門入ってすぐの円形の水盤は「お?」と気になる方がきっと多いはず)。この水盤へと至る枯流れを辿っていくとこの水の流れの始点となる滝石組ともう一つの水盤にたどり着きます。その途中途中には、即翁が蒐集したであろう銘石や一風変わった石造物が…。敷地の境界に新たに設られた反射板もモダンで、庭園の緑や今後の紅葉が幻想的に映り込む仕掛け。
この庭園リニューアルを手がけたのは、ヨーロッパを中心にプロジェクトを手がけるデザイン事務所「KunstWet」(クンストウェット)。きっと検索してもあまり情報が出てこないはず…田根剛さんの下でも様々な作品を手掛けられた矢後亮介(Ryosuke Yago)さんらにより2016年にパリ/ブリュッセルで設立され、現在はフランス/スイス/日本を拠点に活動。オランダでの受賞歴のほか、ブタペスト/アテネ/ベルリンのミュージアムのコンペ等にも参加されている実績があります。
茶の湯を中心に、伝統的な美術品が多いイメージの美術館に、新進気鋭の建築家が手掛けた“庭園”。これもきっと時間を重ねながら一つの「作品」になっていくはず。訪れた際には新しい庭園にも注目してみて。
(2024年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
都営浅草線 高輪台駅より徒歩6分
都営三田線・東京メトロ南北線 白金台駅より徒歩10分
JR東海道新幹線 品川駅より徒歩20分
〒108-0071 東京都港区白金台2丁目20-12 MAP