那谷寺庫裏庭園・琉美園

Nata-dera Temple Garden "Ryubien", Komatsu, Ishikawa

加賀藩三代目藩主・前田利常が再建した書院に小堀遠州指導により作庭された苔庭と、池泉回遊式庭園“琉美園”。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

那谷寺書院庭園・琉美園について

「那谷寺」(なたでら)は奈良時代に創建され、近年開創から1300年を迎えた白山信仰の寺院。本堂“大悲閣”、書院、三重塔など複数の建造物がとなっているほか、書院に面した小堀遠州指導のもと作庭された庭園が「那谷寺庫裏庭園」として国指定名勝、また松尾芭蕉が立ち寄り詠った「奇岩遊仙境」が“おくのほそ道の風景地”として国指定名勝となっています。なお、書院と庭園は入山料に加え特別拝観料が必要。
2019年春に5年ぶりに訪れ、その時に庭園が見られなかったので2020年にも再訪。このエントリでは国指定名勝の庭園に関して。

>> 那谷寺の本堂・三重塔や奇石遊仙境はこちら

那谷寺の創建は717年(養老元年)で近年開創から1300年を迎えました。開山の泰澄大師はその翌年に粟津温泉を発見した人物でもあり、当初から岩窟の中に千手観音を安置したことから当初は“岩屋寺”という名前でした。平安時代に花山法皇の行幸をきっかけに“那谷寺”に。

室町時代に“一向一揆”で荒廃しましたが、江戸時代に入り加賀藩主前田家三代目であり小松城主だった前田利常により再建。その時代(寛永~慶安年間)に加賀藩の名大工・山上善右衛門が棟梁として手掛けた本殿・拝殿・書院・三重塔・護摩堂・鐘楼・唐門の7棟が国重文。
あと特別拝観エリア(庭園)の受付や宝物殿となっている「普門閣」は昭和に移築したで、

普門閣で受付した後、真っすぐ庭園へ進むと庭園“琉美園”へと至りますが…その前に国重文の書院へ。書院から見られる枯山水庭園が国指定名勝の“那谷寺庫裏庭園”。初めて行った時は完全に“那谷寺庫裏庭園”=“琉美園”だと思っていた…。

■那谷寺庫裏庭園
書院・庫裏も他の建造物と同じく前田利常によって寛永年代、1637年に再建されたもの。その建物からのぞむ一面に苔の広がる枯山水庭園は、小堀遠州の指導を受けて、加賀藩の作庭奉行・分部卜斉により作庭されたもの。『兼六園』をはじめ数多く日本庭園が残る石川県の中でも現存する中では最も古い庭園と言われます。

ところで個人的には昨年まで(純粋に知識がなく)小堀遠州に北陸のイメージがなかった。なので加賀の『江沼神社』の国重文の茶室“長流亭”が小堀遠州の設計――と見た時にとても唐突に感じたけど、

●この書院庭園も小堀遠州が指導してる
●次回紹介する『法師』の庭園も小堀遠州作庭とされる
●何より前田利常と小堀遠州が親交が深かったっぽい。
●この書院の造営に“後藤祐乗”が携わっている。
これはたぶん室町時代京都のの名工・後藤祐乗を祖とする“加賀後藤”家のことだと思うのだけど、後藤祐乗から数えて六代目の後藤覚乗はWikiによると《前田利常に資金援助をしてもらい、小堀遠州の設計で、父長乗が造営した庭園を補作》している。なおこれは“小堀遠州作庭”と言われる京都の非公開庭園『擁翠園』のこと。

この辺の人物相関図を頭の中で想像していると、この時代の加賀藩の庭園や茶室に小堀遠州が一定の影響を及ぼしていたのは確かなのかなと思う。

しかし。この苔庭はいわゆる“遠州流の庭園”という感じではない。サツキの刈込もないし庭石や三尊石の石組も小さい。配石も一か所に集中していない。
一つだけ“近いなぁ”と思うのが、小堀遠州の菩提寺『近江孤篷庵』の庭園。菩提寺なので遠州作庭ではなく子・小堀宗慶により造営されたものだけど――遠州の眠るの庭園に近いという点において、「“遠州流”にカテゴライズされる庭園たちはクライアントありきでデザインされたもので、遠州自身の好みはこのような質素なものにあったのか」と思わないでもない。なおこのお庭の片隅には、前田利常のための茶室「如是庵」が残ります。

■琉美園
そして園路に戻って池泉回遊式庭園“琉美園”へ。この庭園の中心になるのが、3つに分かれた見た目の自然の岩盤“三尊石”。奇岩遊仙境のみならずこちらも圧巻。
先の庭園と同時期(寛永年代)にも一度この三尊石を中心とした庭園が作庭されたそうですが、その後荒廃。現在の庭園は1980年(昭和55年)頃に復元+一部は新たに作庭されたもの。

寺院や観光情報を見ていても作庭者の情報が載っていないけれど…1976年に中根金作(中根庭園研究所)が“那谷寺奥庭”を手掛けられているんですよね(年代がちょっと違うけれど)。新たに追加された部分のことなのかなー?奥にある茶室“了了庵”へと向かって小川が流れているのですが、その感じが『三室戸寺』『大仙公園』っぽいな、と思わないでもない。

その護岸の石たちが苔むしているのがまた良い!『苔の里』もですが、粟津のあたりは本当に苔が育ちやすいんだな~。文化財や観光名所として那谷寺を訪れる人には苔の里を知ってほしいし、苔の里をテレビで見て知った人には、この庭園のことも知ってほしい…!

(2014年5月、2019年3月、2020年9月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR北陸本線 粟津駅より約5km(駅前にレンタサイクルあり)
JR小松駅、粟津駅、加賀温泉駅より路線バス「那谷寺」バス停下車

〒923-0336 石川県小松市那谷町ユ122 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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