観光地・熱海を代表する美術館の庭園“茶の庭”。堀口捨己・内田祥哉らに復元された豊臣秀吉の“黄金の茶室”、尾形光琳“光琳屋敷”も。
MOA美術館について
「MOA美術館」(えむおーえーびじゅつかん)は観光地・熱海を代表する美術館。現代美術家・杉本博司が主宰する新素材研究所が設計した展示スペースのある現代的な美術館を主に、昭和の建築家・堀口捨己/早川正夫が復元を手がけた『光琳屋敷』を中心とする和風庭園“茶の庭”があります。
2022年秋に超久々に訪れました。以前初めて訪れた頃は美術館目的で“茶の庭”をあまり庭園として捉えてなかったけど…今となってみると和の建築家や茶人、旧財閥ゆかりの和風建築が点在している…!
その歴史について。新宗教団体・世界救世教の創始者で、東洋古美術のコレクターでもあった岡田茂吉の構想を下に1957年(昭和32年)に開館した『熱海美術館』がその前身。同じく岡田茂吉が蒐集した美術品を展示する『箱根美術館』(国指定名勝庭園『神仙郷』)とは姉妹館的な関係。
その後1982年(昭和57年)に現在の『MOA美術館』が開館。尾形光琳『紅白梅図屏風』をはじめ国宝3点・国指定重要文化財は約70点所蔵。
コレクションはもちろんすごいのだけど、美術館の建つ高台からの相模灘・初島・伊豆大島のロケーションが絶景…というのも相まって観光地・熱海の代表的な観光スポットの一つ(テーマパーク的な存在)で、日本の古美術を扱う私設美術館としては珍しい若いお客さんもすごく多い。
熱海駅側から訪れるとひたすら長いエスカレーターが続く、まるで神殿のような広大な美術館…ここでは庭園を中心に紹介したいので本館の見所はサクッと。
まず2017年に新素材研究所によりリニューアルされた展示スペース。美術品を守るガラスには最先端の低反射高透過のガラスが採用され、「遮るものがまるで無いような」状態でアート鑑賞ができる。美術館にもたくさん足を運んできたけど、ここまで存在感のない(顔をぶつけそうになる)ガラスは初めて。すごい。ロビーにも新素研デザインのソファや杉本博司の『海景』などが展示されています。
そして金箔の輝く『黄金の茶室』。桃山時代、豊臣秀吉が『京都御所』に運び込んで正親町天皇に茶を献じたのをはじめ、「北野大茶会」や九州・名護屋の陣屋、最後に大坂城内に運び組み立てたとされる茶室。
大坂夏の陣の際に焼失してしまった幻の茶室を、当時の大名や茶人らが残した文献を下に、堀口捨己監修、早川正夫設計、内田祥哉・稲垣栄三両教授の協力の下で復元したもの。
そしてモミジや笹類で青々とした“茶の庭”へ。迎えてくれる「唐門」とその先にある「片桐門」は神奈川・大磯に近代に造営された三井財閥の別邸(旧三井家別邸城山荘、現『大磯城山公園』)より移築されたもの。
印象的なデザインの「片桐門」。その名が示す通り、武将・片桐且元ゆかりの門で、三井家の手に渡る以前は奈良の国指定名勝『慈光院』にあったとか。
この空間のメインの建築は江戸時代の画家で“琳派”の代表的なアーティスト・尾形光琳が過ごした京都の屋敷を、光琳自筆の図面などの史料に基づいて1985年(昭和60年)に復元したもの。お屋敷と茶室の前には露地風の庭園が広がります。
他にも“茶の庭”には和食が味わえる「花の茶屋」や、呈茶席のある茶室「一白庵」も。一白庵の設計はワシントンの日本大使館の茶室も手がけている江守奈比古さん。
最後に、片桐門の先にある非公開の茶室『樵亭』。幕末の岡山藩の筆頭家老&裏千家の十一代目・玄々斎に師事した茶人・伊木忠澄(伊木三猿斎)が岡山の屋敷にもうけた約20の茶席のうちの一つ「大爐の間」を移築したもの。
これまで当サイトで紹介した中では岡山の『少林寺庭園』が伊木忠澄ゆかりの寺院で氏をまつる茶堂がありました。
ところで、ここで黄金の茶室や光琳屋敷の復元に携わった堀口捨己は三井家大磯別邸→犬山『有楽苑』へと移った国宝『如庵』の移築にも関わっている。だとすると唐門・片桐門のこの地への移築にも関わったりしてそう。
更に言うとこの“茶の庭”と『有楽苑』は少し雰囲気が似ている気がするので、共通の作者が関わっているのかも。いつか建築のように庭園の作者も語られることを期待して!
【追記】
“茶の庭”は岩城(岩城造園)と、MOAの自社の造園会社・MOAグリーンサービスにより作庭されたと情報をいただきました。
(2022年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)