月心寺走井庭園・橋本関雪別邸「走井居」

Gesshin-ji Temple Garden, Otsu, Shiga

旧東海道沿いの隠れ家。大正期に日本画家・橋本関雪が購入した、相阿弥作庭と伝わる池泉回遊式庭園。

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別邸「走井居」・月心寺庭園について

【通常非公開・団体見学や特別公開日あり】
「瑞米山月心寺」(ずいべいさんげっしんじ)は大正〜昭和期に活躍した日本画家・橋本関雪を開基とした、橋本関夫妻の菩提寺。池泉式の“走井庭園”の作庭は室町時代に京滋の庭園を多く手掛けている相阿弥によるものと伝わります。また橋本関雪の別邸として『走井居』(はしりいきょ)といった名称も用いられます…というかむしろ橋本関雪の別邸としての紹介が主。

旧東海道の山科と大津の間にの庭園がある…という情報はうっすら知っていたんだけど、2019年春に京都の『白沙村荘庭園』を再訪した時に、それが橋本関雪ゆかりの庭園(別荘)であることを認識し。
行きたい…!と思って調べると、普段は非公開(団体見学は受け付るけど、個人での拝観は不可)…でも時々「個人でも拝観できる日がある」と。公式Facebookをチェックしたり、『京おんな京おとこ』さんから情報をいただきながら、11月の一般公開日に初めて訪れました!

大津市と言っても本当に京都との県境で。南禅寺界隈から言えば約6km、白沙村荘から言っても10kmも無い。古代から大津と京都の玄関口だった“逢坂関”からすぐ近く、そして江戸時代までは東海道に沿って人々が往来し賑わっていたエリア。歌川広重の東海道五十三次にも“走井茶屋”として描かれ、松尾芭蕉も訪れ歌を残したり、明治天皇が行幸の際に立ち寄ったことも。

しかし近代に東海道本線が開通、移動手段の変遷と共にこのエリアは廃れてしまいました。走井茶屋も店じまい。その後『白沙村荘』を建設中だった橋本関雪の下に購入の打診があり、この場所を残したいと心に決めた関雪が別荘として購入。これは単純に「旧跡が失われることを惜しんだ」だけでなく“関雪”という名が逢坂関での故事に由来することもあったとか。
ちなみにパンフレットには書かれていないけど、丁度お話をさせていただいた『橋本関雪記念館』館長さまのコメントによると「妻の強い反対を、関雪は押し切った」のだとか(笑)の庭園に惚れ込んだのか、ロケーションに惚れ込んだのか――は不明ですが、最終的には芸術家の直感なのだろうなあ。

関雪が暮らした頃と現在でもまた環境はおそらく異なっていて――現在のこの近辺は現在も東海道として車通りはめちゃくちゃ多いけど、一方で家屋や商店はほとんどない場所(駅前には当時の面影を残すうなぎ屋さんこそあれ)。
だからこそ、現代的な車とエンジン音だけが目と耳に入る通りから塀を隔てただけで広がる、この庭園の“異世界”感はめっちゃくちゃ良い。枕草子にも登場する井戸“走井”からは現在も湧水が流れ落ち、美しい滝の姿を見せています。

その滝を中心にのぞみ、山の傾斜を利用した池泉庭園“走井庭園”の作庭は相阿弥と伝わります。だとすると室町時代の庭園。現在は庭園中腹にある茅葺の“百歳堂”などを巡る回遊式庭園になっているけど、その石組を見ていると当初は座観式の庭園だったのかなあ…という気がします。空中にせり出すように建てられている“百歳堂”から、カエデ越しに眺める旧東海道――本当に塀を一枚隔てて別世界がここにある、という感じ!

ちなみにこの百歳堂には100歳となった小野小町の終焉の地…という伝承があるそう。…平安時代に100歳まで生きたとは考えづらいけど、逆に小野小町の没年も未だ不明だそうであながち「そんな訳ない」とも言えないという。京都の別の街に「69歳で亡くなった」という伝承もあるようなのだけど、69歳でも当時からすれば長寿だった=まるで100歳まで生きた――みたいな感じなのかもな。

なお月心寺として寺院が開かれたのは関雪の没後。「走井居」の入口とは別に山門と本堂があります。そしてこの山門に登る階段と石垣、これはかつて大津城、坂本城と並んで「琵琶湖の浮城」として数えられた膳所城の石垣が移築されたものだそう。2020年は明智光秀の居城・坂本城が注目を集めますが、関連史跡としてこの膳所城の石垣を巡ってみるのも面白いかも…?
そしてこの古代からの街道沿いのこの茶屋跡、先の著名人以外にも立ち寄ってる著名人が居ても、何の不思議もないかもなぁ。そんな、滋賀という枠で語るよりは『隠れた京都の庭園』として伝えたい場所!

(2019年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

京阪京津線 大谷駅より徒歩5分

〒520-0062 滋賀県大津市大谷町27-9 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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