独楽庵庭園“三関三露”

Dokurakuan Garden, Izumo, Shimane

大名茶人・松平不昧が江戸に築いた大名茶苑“大崎園”でこよなく愛した千利休ゆかりの茶室と自ら考案した露地庭。

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独楽庵庭園“三関三露”/松籟亭庭園について

「独楽庵」(どくらくあん)はかの千利休が京都・宇治田原に建てた茶室。江戸時代には江戸後期を代表する大名茶人・松平不昧公こと七代目松江藩主・松平治郷が入手、自らの屋敷内に移築し“三関三露”という露地を添えた大名茶苑を作庭。
ここで紹介するものは、後に消失したその茶室・庭園を古絵図を元に茶室研究家・中村昌生先生によって『出雲文化伝承館』内に完全復元されたもの。

2020年秋の島根県庭園巡りで初めて訪れました(そして最後の紹介庭園…!丸半年かかった…!)。
そして『出雲文化伝承館(旧江角邸)庭園』の中でも書きましたが、の出雲流庭園”、“絵図を下に再現された不昧公ゆかりの露地(独楽庵)”、“京都の有力作庭家が手掛けた茶庭(松籟亭)”と3つの異なる庭園が見られるここは、約30箇所巡った中で一番!かもしれない。

でも元々は伝承館の庭園を見たいなと思っていたけど、独楽庵(というか中村昌生さんの茶室が2棟)のことは知らず。「こんな場所があるなんて…最高かよ」みたいなことをお茶席でお伝えしたら、これらの茶室について詳しく解説された『INAX REPORT No.112』をお見せいただいた。
下記の説明のうち公式サイトには記載されていない点はその内容をざっくり噛み砕いたもの。(実際は15P分ぐらいに渡り細かく詳しい解説がされているのだけど、なにぶん自分もまだ細かく理解できる知識量がないので、分かり易い所だけ…)

自らの代に松江藩の財政を立て直した松平不昧。56歳の時に子・松平斉恒に家督を譲り隠居すると、現在の東京・北品川に造営した約2万坪という広さをほこった江戸下屋敷“大崎園”へ移り、そのうち1万6千坪の広さに12の茶室・数寄屋建築を配した“大名茶苑”をもうけ、茶の湯三昧の晩年を過ごしたそう(*そして再び松江藩の財政は悪化したとか…)。
この大崎園、現在で言うと御殿山トラストシティがある辺り。『御殿山庭園』ってそんなルーツもあったのか…(磯崎新の茶室が建築されたのは歴史に対するオマージュ的な意味合いだったのか)。

その数ある茶室の中でも最も重要だったとされるのが“独楽庵”。千利休が“宇治茶の郷”宇治田原に建立し、そこから京都の豪商・中村蔵介や古田織部小堀遠州に師事した武将茶人・船越永景、大阪の豪商の手に渡った後に松平不昧がゲット。そんな名園/名席も残念ながら幕末の黒船襲来にともなう品川沖の警備のために取り壊しを余儀なくされたそう。

時は流れて昭和の終わり、出雲市の市政50周年を記念して『出雲文化伝承館』が開館するにあたり、中村昌生さん(京都伝統建築技術協会)の監修・設計の下で“三関三露”と称された露地庭を含めて完全再現。“出雲屋敷”と同じでこちらも建築そのものの数倍、露地庭が占めるスペースの方が広い。
『“三関三露”も含めてやらなきゃ意味ないよ』というコンセンサスを行政(市長)・施設責任者・設計者の間で取れていたというのがすごいなぁ。(ぎりぎりバブル終わりだったのもあるとはいえ、行政の長が文化に対して理解あるっていいよね)

復元にあたっては幸いにも独楽庵や大崎園の絵図が松江藩の旧家や国会図書館に保存されており、それらを元に設計。ちなみに中村昌生先生の解説の中に「堀口博士蔵の資料にも…」みたいな一文があって。これは堀口捨己のことなんかなー。(堀口捨己も大崎園のことについて知っていた上で『八勝館』のあの空間に携わったんだと思うと、納得ーーみたいな)

外露地、そしてこれまで見た出雲流庭園らしさのある中露地を経て、独楽庵のある内露地へと至る“三関三露”。再現されたものとはいえ日本全国で見ても稀有な“大名茶人好みの露地庭”、これまであまり体感したことがない感じの庭園。独楽庵は茅葺の利休席を中心に、船越伊予守永景が加えた席、裏千家6代目・泰叟宗室(六閑斎)好みの“苔香庵”からなります。

そしてこれで終わりじゃない。隣接する現代数寄屋建築“松籟亭”は中村昌生さんと京都の数寄屋大工・安井杢工務店により造営されたもの。
作庭者名は書かれていないけど、中村昌生茶室の庭園を他にも手がけ“三関三露”の庭園再現にクレジットされている川崎幸次郎さんと京都景画・木村孝雄さんによるものかな、と推測。なのでこちらの露地庭は、三関三露や出雲流庭園との調和が考慮されながらも“京風の庭園”のような雰囲気が現れているように思います。

京都に残る、の集大成『大徳寺孤篷庵』の“忘筌”。小堀遠州に憧れ、孤篷庵や忘筌の再興に尽力した松平不昧。その松平不昧が自ら考案した集大成の露地庭“三関三露”。マストなやつです。
そして“出雲屋敷”ともども、ほんと無料じゃ勿体ない施設なので…お蕎麦屋さんや松籟亭の茶席でお金を落とすことを強く推したい!

(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

一畑電車大社線 浜山公園北口より徒歩18分
JR山陰本線 出雲市駅より約5km(駅にレンタサイクルあり)
出雲市駅より路線バス「常松町」バス停下車 徒歩18分

〒693-0054 島根県出雲市浜町520 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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