北陸新幹線延伸で訪れたい、加賀温泉の少し先の“庭屋一如”な和のお屋敷と庭園!数寄屋建築の離れが素晴らしい東証上場企業創業者の旧邸。加賀市指定文化財。
大聖寺 鴻玉荘(旧新家家住宅)庭園について
【土日のみ公開】
「大聖寺 鴻玉荘」(だいしょうじ こうぎょくそう)は石川県加賀市にある近代和風建築。東証スタンダード上場企業「大同工業株式会社」の創業家・新家氏の元お屋敷で、「旧新家家住宅」(きゅうあらやけじゅうたく)として8棟が加賀市指定文化財。大正時代、前身の料亭時代に作庭された庭園が残ります。
2024年、北陸新幹線の開通で首都圏からもグッと行きやすくなる「加賀温泉」。その加賀温泉の在来線の隣駅・大聖寺駅が加賀市の旧市街で、江戸時代には加賀百万石・前田家の分家が藩主をつとめる支藩・大聖寺藩の城下町でした。
そんな大聖寺の代表的な観光スポットは『石川県九谷焼美術館』、そして山ノ下寺院群。駅から向かってその2つを越えた先、2021年に開館/一般公開が開始されたのが「大聖寺 鴻玉荘」。ここは!!!庭園も含めて本当に素晴らしい!!!石川県にはまだこんな素晴らしい数寄屋建築と名庭園が隠れていたのか…!!!
先に新家家について。初代の新家熊吉は「山中温泉」で知られる山中村に生まれ、山中漆器の漆器業を営む家で職人としてキャリアをスタート。商才のあった熊吉は漆器の販路を海外へと広げ、またその「木工」の技術を自転車のリムへと活かすことに。自転車の一般化に伴い事業は拡大。
その時設立された「新家自転車製造」から拡大した大同工業は、さまざまな乗り物のローラーチェーンやリム、ホイール、工場のベルトコンベア等のメーカーに成長。プロ野球・阪神タイガースのアワード企画の冠スポンサーにもなっています。
そんな新家熊吉の別邸が、先に紹介した山中温泉の石川県指定文化財『無限庵』。そして新家家の本邸だったのがこの「鴻玉荘」。1925年(大正14年)に建てられた料亭「高砂」がそのルーツ(当初造営されたのが道路に面する主屋と土蔵、そして庭園)。昭和年代に2代目新家熊吉が購入し、戦後の1947年(昭和22年)に離れ座敷「鴻玉荘」、そして1952年に庭園内の茶室「龍崖庵」が建立されました。
現在は大聖寺の歴史・文化に関する展示が行われている「主屋」も料亭ルーツなだけあって障子や欄間の意匠が素晴らしいのですが——、離れ座敷が本当にすごい!!!
玄関からまず複雑な組み方、そして扇形の飾り窓と欄間が素敵。嵩上げされている小間は外から見た時に足元にあるデカい赤石(佐渡の赤玉石?)がすごい。
1階2階と合わせて3つの広間があるのですが、3部屋とも一つ一つ異なる欄間・障子の意匠、そして部屋の色も緑、赤、青…とすべて異なる。群青色の書院座敷は『辻家庭園』(旧横山伯爵邸)など石川県のお屋敷で時折見かける、格式が感じられるお部屋。
戦後、物資が少ない時期に良質な材をふんだんの用いて建造されたこの建築は、戦後の不景気の中で大工に仕事を作る目的で建設されたとか。各部屋ごとにデザインが少しずつ異なるのは、その時の大工が腕を競わせたから。後年まで新家家の迎賓館として使われ、さまざまな財界人、Hondaの創業者・本田宗一郎も訪れたとか。
そして庭園も素晴らしい。原型は料亭時代に作られ、離れの増築の際に改修されたもの。
■背後の山(金龍山)との近さを活かしたモミジや苔など自然が美しい。
■そしてカラフルな庭石、変わったデザインの石灯籠、そして山の斜面に組まれた滝石組なども素晴らしい。庭石がカラフルな点(色んな地域の自然石を使う)は、『蔵六園』や『松任ふるさと館庭園』など、北前船で栄えた時代からの加賀の庭園の特徴でしょうか。
■庭園の中腹にある茶室「龍崖庵」。山の調和も意図して建てられていて、庭園のアイキャッチとしても◎。一般公開の際は内部は立ち入り禁止ですが、中から丸窓越しの庭園の姿も美しいそう。
…などなど、本当に見てほしい/推せる庭園!加賀温泉・あわら温泉に宿泊に訪れた際には、大聖寺にも足を伸ばしてみて。
(2023年4月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)