杉本家住宅・杉本氏庭園

Sugimoto Family House Garden, Kyoto

“市中の山居”という言葉はこのお庭の為にある…京町家のお庭で初めて/唯一国指定文化財となった庭園と、国指定重要文化財の京都の代表的な町家建築。

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杉本家住宅・杉本氏庭園について

【不定期公開/公開日は公式サイトで要確認】
「杉本家住宅」(すぎもとけじゅうたく)は京都市の中心部・四条烏丸の交差点から程近くに残る国指定重要文化財の京町家。庭園も「杉本氏庭園」(すぎもとしていえん)として京町家のお庭としては唯一“ランドスケープの国指定重要文化財”国指定名勝に選ばれている、京町家の代表格的な存在。

常時公開ではありませんが、例年3月の「ひな飾り展」、5月の「端午の節句展」、7月の「祇園会屏風飾り展」や週末を中心に一般公開・特別公開が行われています。公開スケジュールは公式サイトよりご確認ください。

前述通り、京都ならではの景観を形作る“京町家”の代表格的な存在として名前を挙げる機会の多い杉本家さん、近年の主屋の修復後に久々に訪れたので新たな写真を交えて紹介。

その歴史について。伊勢国出身の初代・杉本新右衛門が江戸時代中期の1743年(寛保3年)に京都の烏丸通四条上ルに「奈良屋」の屋号で呉服商を創業したのがその始まり。現在、この杉本家住宅を保存・公開している公益財団法人「奈良屋記念杉本家保存会」の「奈良屋」はその屋号が由来。
ちなみに「奈良屋」は江戸時代後期に下総国(千葉県)へと出店。昭和時代には百貨店「奈良屋」「ニューナラヤ」(→千葉三越)が営業されていました。一方で昭和時代に活躍された文筆家・杉本秀太郎さんがこの杉本家の出身。

杉本家が現在地に居を構えたのは1764年(明和元年)。当初の主屋は幕末の大火で焼失してしまいますが、明治維新直後の1870年(明治3年)六代目の新左衛門為賢の代に現在の主屋が竣工。焼失を免れた江戸時代の土蔵(中蔵・大蔵・隅蔵)とともに江戸時代の京町家の形式を現代まで伝えます。

通りに面する間口が約30メートル/敷地面積約300坪の京都市内最大規模の町家には、主座敷から眺める“座敷庭”と“仏間庭(坪庭)”、茶室に面した“露地庭”、非公開エリアにある旧坪庭、蔵跡の庭…といくつかのお庭が残り、それらをひっくるめて「杉本氏庭園」が京町家のお庭としては初の国指定文化財に。玄関前の「玄関庭」や町家特有の「トオリニワ」が国指定名勝となったのも最初の事例。
主要なお庭のみもう少し詳しく。

■座敷庭(1・7〜9枚目)
主座敷からのガラス越し、または縁側から眺められるお庭。苔むしたお庭の中央にはまあるい伽藍石を配し、その前後には赤みを帯びた京都の銘石「鞍馬石」を交えた沓脱石〜飛び石が打たれている。左手の隅に手水鉢、右手には石灯籠(春日燈籠)が置かれ、デザイン的にも文化財の格としてもこれがまさにザ・“京町家のお庭”。
でもこのお庭を囲む三種の竹垣、中でも自然風のクロモジ垣はこのお庭の特徴の一つ。またモミジ等の落葉樹ではなくモッコク、ネズミモチなど常緑樹が中心のお庭なので、冬にも青さが感じられるお庭でもあります。

■仏間庭(10枚目)
鱗のように並べられた“滑り石”と唐銅水盤による坪庭(石庭)は、上の座敷庭と下の露地庭と比べるとだいぶモダンな雰囲気を醸します。世界遺産『西本願寺』の白書院「北の能舞台」にこの様な滑り石が敷き詰められており、杉本家には本願寺派の門主が訪れた記録が残ることから、それがモチーフになると推測されています。

京都のモダンな枯山水で知られる重森三玲が小石を鱗状に並べた『真如院庭園』を作庭するのは昭和時代中期のこと。それらが元ネタの一つでもあったのかな。

■露地庭・茶の間(12〜18枚目)
主屋から少し遅れて明治20年頃に増築された八畳間から眺められるお庭。その八畳間と隣接する「茶の間」へと至る露地・茶庭で、苔むした中に打たれた飛び石が庭門へと続きます。
尚、近年まで続いていた主屋の修復工事の為に足場を組んでいたので少し苔が剥げてる箇所がありますが、また年を追うごとに苔むしていくはず…。

ところで杉本家の「茶の間」は一般的な茶室とは違って、部屋と部屋の間(途中)にある変わった作り。元々7畳の廊下だった場所を4畳と3畳で区切り、3畳に1.5畳を増築して茶の間にした…というのが変わった作りの理由。(1935年・昭和10年)
その改修を担当したのは茶道藪内流の茶人・藪内節庵。藪内節庵と言えば、茶室のみならず京都では『旧三井家下鴨別邸』、その他の関西では『旧西尾家住宅』『旧村山家住宅』と言った国指定重要文化財の邸宅のお庭(茶庭)の作庭者としても名が残ります。なのでこの露地も節庵による手が加わっているはず…。

京都の夏の風物詩「祇園祭」の際には杉本家は山鉾「伯牙山」のお飾り場として、ミセノマに様々な展示・装飾がされます。京町家の文化・建築にふれたい方はぜひ杉本家に訪れてみて。

(2018年3月、2024年12月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

京都市営地下鉄 四条駅/阪急京都線 烏丸駅より徒歩5分
最寄りバス停は「四条西洞院」バス停 徒歩3分

〒600-8442 京都府京都市下京区矢田町116 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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