染谷家住宅(染谷氏庭園)

Someya House Garden, Kashiwa, Chiba

平将門ゆかりの神社も近い、柏市郊外/手賀沼近くの江戸時代の名主屋敷。8棟の国登録有形文化財建築と、銘石“根府川石”が特徴の国登録名勝庭園。(日曜日のみ公開)

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

染谷家住宅・染谷氏庭園について

【日曜日のみ公開】
「染谷家住宅」(そめやけじゅうたく)は千葉県柏市の郊外・鷲野谷(旧・手賀村)に残る国登録文化財のお屋敷&庭園。主屋、長屋門など8棟の建築が国登録有形文化財。お座敷から眺める庭園を含む敷地全体が『染谷氏庭園』(そめやしていえん)の名称で国登録記念物(名勝地関係)に選定。長屋門は柏市景観重要建造物にも指定。

Jリーグ・柏レイソルのホームタウンとして知られる千葉県柏市。その唯一の国指定重要文化財の建築であり、庭園も国登録名勝の『旧吉田家住宅歴史公園』(旧吉田氏庭園)に次いで、2020年に庭園が国登録文化財となったのがこの染谷家住宅。5年間に及ぶ「令和の大改修」を終え、2024年10月より一般公開がスタートしました!(※公開日は日曜日のみ)

柏市の中心部からは約7km南東部、どちらかと言えば我孫子市の中心部の方が近い鷲野谷エリア。すぐ北に手賀沼が広がり、手賀沼を干拓した新田/水田が広がる農村ですが、かの平将門ゆかりの『将門神社』(将門大明神)を始めとして歴史を感じる寺社仏閣が点在。(少し離れた場所には『平将門 王城の地』や、千葉県最古の教会『旧手賀教会堂』も。)

そんな集落に現れる長屋門と高木の林からそのスケールの大きさを感じさせる「染谷家住宅」。染谷家はかつて中世にはこの地を治めた土豪だったとされ、江戸時代には当地の名主として、農業の他にも酒造業/養蚕などを営み、江戸にも酒屋や大きな質屋を営んでいたそう。4,000坪/約1万3千平方メートルの敷地内に点在する江戸時代〜明治・大正時代に建築された8棟(母屋/長屋門/前蔵/文庫蔵/稲荷社/風呂場/肥料小屋/井戸屋形)が国登録有形文化財。
中でも最も古いのは長屋門で、その次に古い母屋は1847年(弘化4年)の建築。この2棟が江戸時代から残ります。

その当時の当主(14代目)・染谷長富藤田東湖とも並び称される儒学者・芳野金陵に学び、江戸〜水戸での様々な政争にも通じる一方で、俳人・茶人としても活動する文化人でもありました。茶道江戸千家不白流川上宗順に師事し、このお屋敷の庭園の一角には「養老庵」というお茶室も構えていました(現在は消失)。全体的なお屋敷構えや、江戸の要人を迎える為の茶室・庭園がある所は先述の『旧吉田家住宅』に似ている…。

庭園について。メインのお庭は母屋南側のお座敷から眺める庭園(主屋南庭)ですが、先述通り文化財としては「敷地全体」が登録範囲(特に高木の立ち並ぶ「アラク山」と名付けられた屋敷林!)。
また、長屋門から母屋の玄関の前に広がる前庭もよくお手入れされたマツや各種の刈込で構成され、式台玄関の前のソテツは要人を迎賓する気持ちがとても現れている。玄関や床の間には“南澤”という同一の画家による作品が。

■主屋南庭(12〜20枚目)
客人を迎えるお座敷からの鑑賞を主とした庭園で、現在は建物側から眺めるのみですが、その飛び石からは先述の茶室「養老庵」への露地・茶庭も兼ねていたことが推測できます。(これはやっぱり『旧吉田家住宅』と似ている)
建物から見て奥に苔むした枯池(滋賀の『青岸寺庭園』の様な)と築山があり、三基の灯籠がアイキャッチになっています。頭上の大きなモミジ/カエデの紅葉の時期にはより美しい姿を見せてくれそう…!

その特徴は飛び石。小田原で産出される平たい「根府川石」がふんだんに使われている点。根府川石がふんだんに使われているお庭の代表格としては東京の大名庭園『旧芝離宮恩賜庭園』。近代には、京都の南禅寺界隈別荘『大寧軒』では“珍しい石”として重要なポイントに用いられていたり、小田原にも邸宅を構えた近代を代表する茶人・松永安左エ門『柳瀬荘』にも取り入れられたりしているけれど(現代では世界的美術家・杉本博司さんが好んで使っている)。そんなそうそうたる面々を並べた中で、小田原から離れた江戸時代の農家のお庭にこれだけ使われているってのはとても面白い点…(なんでも染谷家は小田原方面とも関係性があったとか)。

主屋の北側のお稲荷さん(稲荷社)の周辺にそびえるウラジロカシの巨木が染谷家の御神木。個人的に良いなぁと思ったのは、母家の北側に残された「落書き」。修復の際も「あえて残した」と19代目のご当主。ご当主曰く、自らの子供の頃(昭和の戦後)には既にこの落書きはあったのだとか。戦前戦後から残る落書き…ってそれもまたとても貴重な「歴史の痕跡」。

2024年からの公開の中では、通常の公開以外にも古いお屋敷を活かしたイベントも開催されています(柏市にはこの染谷家住宅を含め柏市内の古文化・文化財の活用に取り組む「NPO法人ジセダイ歴史文化継承研究所」が設立)。
そしてこのお屋敷自体は柏駅からは離れているものの、15代目当主・染谷大太郎は明治時代の柏駅の開設にも尽力したひとり。そんな地域を支えた方のお屋敷、ぜひ一度足を伸ばしてみて。

(2025年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR常磐線 我孫子駅より約5km(駅前にシェアサイクルあり)
JR我孫子駅より路線バス「手賀の杜ニュータウン」バス停下車 徒歩20分弱
JR柏駅より路線バス「幸田原」バス停下車 徒歩15分

〒270-1443 千葉県柏市鷲野谷24 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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