巨匠・村野藤吾の和風建築の代表作にも挙げられる、近鉄グループ中興の祖・佐伯勇の自邸。庭園の作庭は小島佐一。
旧佐伯邸・松伯美術館について
【期間・曜日限定公開】
「旧佐伯邸」(きゅうさえきてい)は近畿日本鉄道の社長を20年以上に渡って務め(後に名誉会長)、近鉄を日本一の私鉄へと押し上げた佐伯勇が晩年を過ごした邸宅。その近代数寄屋建築の設計を昭和の巨匠・村野藤吾が、そして和風庭園の作庭を小島佐一が手掛けました。
隣接する『松伯美術館』(しょうはくびじゅつかん)の開館期間中(1・2月、7・8月を除く)の土・日・祝の11〜15時の間のみ内庭が開放され、野点“喫茶處 伯泉亭”が営業されています。
2020年の秋に初めて訪れました。そして、“2020年最も足を運びたかった場所”のうちの一つ。ちょっと前の『和風住宅』かなにかを読んでいて、村野藤吾の手掛けた和風建築の中では最高傑作的な評価をされていて…それは早く見に行かねばと。2020年はCOVID-19の影響で旧佐伯邸の内庭の開放もしばらくされておらず…秋に再開したのを見て訪れました。
と、その前に佐伯勇さんについてもう少し。その経営者としての手腕は近畿日本鉄道の路線拡大のみならず、近鉄百貨店や近畿日本ツーリスト、都ホテルなど“近鉄グループ”を急成長。文化面でも同じ学園前駅の『大和文華館』(吉田五十八建築)も佐伯により設立されたもので、プロ野球・近鉄バファローズのオーナーも長くに渡り務めました。
現在「旧佐伯邸」と隣接して建つ『松伯美術館』は佐伯の死後に佐伯邸の敷地内に建てられ、1994年(平成6年)に開館した美術館。こちらも設計は村野・森建築事務所(村野藤吾ではないけど)。
近代の日本画家・上村松園、その子・上村松篁、孫・上村淳之と、主に上村家三代の作品を収集・所蔵・展示しており、今回訪れた時もこの三代の企画展でした。設立に関しては《上村松篁・淳之両画伯からの作品の寄贈と近畿日本鉄道株式会社からの基金出捐により》(公式HPより)とあるのですが、書かれてないけどその前段として「佐伯勇が上村家のパトロンだった」のかなと…(それが自然・そうじゃないと不自然)。
「旧佐伯邸」が建築されたのは1965年(昭和40年)。施工は大林組。美術館開館後の1998年(平成10年)から現在のような日を限定した内庭開放がはじまり、また表千家の残月を模したという茅葺の茶室“伯泉亭”の貸室利用がスタート。それでも主屋内部は非公開。(外観のみ)
内庭を『旧佐伯邸庭園』だと思うと、実業家としてのスケールを思うととてもこじんまりして見えてしまうのだけど…そうじゃないんだよな、かつてはこの一帯が『佐伯邸』だったわけで、主庭園は“大渕池”へと向かう斜面に植わっている百数十本という松林で、高床になっている主屋から眺めたらきっと松林を近景・大渕池を中景・そして春日山方面を遠景をしていたんじゃないかな〜。更には、自らが開発した登美ケ丘の街も見下ろして…。
小島佐一さんのことも。昭和の京都の名庭師の一人として以前から本で目にしていたけど、『作庭:小島佐一』という庭園を見るのは(紹介するのは)初めてで。言わずと知れた、中根金作の代表作『足立美術館』の作庭にも参加。また大阪の『太閤園』の復元修復等を手掛けられています。
期待値が高すぎた分「ここのスケールは主屋から眺めないとわからなさそうだ…」と思ってしまったけれど…それでも上村松園作品を沢山見た後に庭を見ながら御抹茶とお菓子を戴けて良い午後のひと時でした。上村松園の絵のタッチはいつどこで見てもほんとうに惚れ惚れする。いつか佐伯邸の内部が公開されることがあったら飛んで来ます。
(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)