SETAGAYA Qs-GARDEN / 蒼梧記念館庭園

世田谷キューズガーデン

2023年に開かれた東京の新たな緑のオアシス…“海の豪商”馬場氏と第一生命創業者自邸、2つの昭和時代初期のモダン建築の並ぶ庭園。

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SETAGAYA Qs-GARDEN / 蒼梧記念館庭園について

「SETAGAYA Qs-GARDEN」(世田谷キューズガーデン/せたがやきゅーずがーでん)は東京・世田谷の第一生命グラウンド(相娯園)を再開発し2023年3月にオープンした“まち”。園内には第一生命保険の創業者・矢野恒太の旧自邸『蒼梧記念館』と建築家・吉田鉄郎設計の『光風亭』(旧馬場正治烏山別邸)と2つの歴史的建造物が残ります。光風亭は東京都選定歴史的建造物およびDOCOMOMO Japanの「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定。蒼梧記念館の前には日本庭園も。

京王線・仙川駅と千歳烏山駅のおおよそ中間点に位置する「SETAGAYA Qs-GARDEN」。第一生命の保養/福利厚生施設「相娯園」として1954年に開園し約70年間用いられてきましたが、東京ドーム約2個分に及ぶ広大な敷地の利活用を2010年代半ばから計画~リニューアルされ、2023年に“まちびらき”されました。既存のスポーツ施設も一部残しながら(既存のテニスコート・陸上/サッカーのグラウンドなど)、丸紅都市開発/相互住宅/NTT都市開発/野村不動産との五社共同プロジェクトとして分譲・賃貸住宅、サービス付き高齢者向け住宅などのあるエリアへと生まれ変わりました。

「相娯園」が開かれる以前へとさかのぼります。光風亭を中心とする『馬場氏烏山別邸』がこの地に造営されたのは1937年(昭和12年)。
江戸時代から富山を拠点に海運で財を成し“五大北前船主”とも呼ばれた馬場家、近代以降も汽船・海運事業で成功。富山の旧邸(本家)は国登録有形文化財、東京にはこの烏山別邸のほか『旧馬場家牛込邸』(現・最高裁判所長官公邸)を構え、牛込邸は国の重要文化財に指定されています。

現在残る“都会の森”のような樹木もその当時に生まれ~相娯園とともに育まれてきたもの。ゼロベースで計画された中には既存の樹木をすべて伐採、歴史的建造物も取り壊し投資効率を上げるプランもあったそうですが、様々な検討の結果「第一生命らしさ」を象徴する建物としてその2棟も残され、既存の樹木も活かされた緑あふれた空間となっています。

今回の再開発にあたりランドスケープを担当されたのは東京のデザイン事務所・フィールドフォー・デザインオフィス(FIELD FOUR DESIGN OFFICE)さん。歴史的建造物の前にはそれぞれ庭園/ガーデンが広がります。

■蒼梧記念館(旧矢野恒太邸)
1927年(昭和2年)に田園調布に建てられた第一生命創業者・矢野恒太の自邸で、1986年(昭和61年)に相娯園内に移築。瓦屋根や木目、附属する土蔵の漆喰のなど一見和風建築、しかし基礎の石張りやバルコニー/ベランダ、ガラス戸は洋風…といった和洋折衷な近代和風建築。設計は辰野金吾の弟子、第一生命営繕課の松本与作。(訪れた日は中は見学できませんでしたが、今後はレンタルスペースとしての活用が予定されているそう。)

その前に広がる回遊式の庭園はこの度リニューアルされたもの。施工は東光園緑化株式会社さん。元の庭園から再利用された庭石や石灯籠に手水鉢、歪曲した飛び石の雰囲気など形式としては「和風庭園」なのだけど、いわゆる「ザ・伝統的」な雰囲気とはまたちょっと違って…それは芝生や苔を張るのではなく、「地場の土の中から繁茂される山野草によって生まれる緑」を目指している点。(この時点ではまだまだ土でしたが、時間の経過と共に自然の草による緑のお庭になっていくはず…。)
印象的な2つの巨石は第一生命のフィロソフィー「相互扶助の精神」を表現。

■光風亭(旧馬場正治烏山別邸)
前述どおり、かつて海運で財を成した馬場家の別邸として1937年(昭和12年)建てられたもので、京都『新風館』などでも有名な建築家・吉田鉄郎の設計。「洋風」なのだけど「洋館」ではないモダン建築。無人コンビニなどもある、地域の多世代交流拠点として活用されています。
光風亭の前にはSETAGAYA Qs-GARDENにとっての主庭とも言える芝庭「CENTRAL GARDEN」が広がります。

園内を歩いているとウッドチップの使われている園路が多いこともSETAGAYA Qs-GARDENの特徴。それらも元は相娯園にあった木々の伐採後に再利用されているものなのだそう。東京の新たな緑のオアシス、一度訪れてみて。

(2023年8月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

京王本線 仙川駅より徒歩12分

〒157-0064 東京都世田谷区給田1丁目1-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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