万宝寺庭園

万宝寺庭園について

【要事前連絡】
「霊亀山 萬寶寺」（万宝寺／まんぽうじ）は“世界遺産”『姫路城』のまち・兵庫県姫路市の海手側にある臨済宗妙心寺派の寺院。江戸時代初期を代表する茶人・千宗旦（千利休の孫）の高弟“宗旦四天王”の一人で茶道普斎流の祖・杉木普斎が作庭と伝わる池泉鑑賞式の日本庭園があります。

地元・兵庫県の地域誌？神戸新聞？の名庭園企画にも過去に登場したという万宝寺の庭園、2024年末に初めて訪れました。

姫路の中心部、山陽姫路駅から電車で20分程。的形町は江戸時代には一面が塩田だった言われるほど製塩業が栄えたエリア（その跡地は現在はゴルフ場やメガソーラーになっています）。更に歴史をさかのぼると、海岸には奈良時代の高僧・行基の上陸地と伝わる岩盤「行基が鼻」という場所があり、近くの『海獄寺』は行基創建と伝わる古刹。

的形駅から徒歩10分程の山手側に位置するお寺さんが「万宝寺」。その歴史について。江戸時代初期の1664年（寛文4年）、当地の豪商「米屋」の中村与兵衛が姫路の大寺院『慶雲寺』の南室和尚こと大悲弘済禅師（「播磨西国三十三箇所」の選定者として知られます）を開山に招き創建。

中村与兵衛の父・中村勘兵衛は豊臣秀吉の重臣“豊臣五大老”としても知られる戦国大名・宇喜多秀家の家臣で、関ヶ原の戦いにも参戦。その敗戦後、一族郎党を引き連れ立ち寄ったこの的形の地に住居を構え商人へと転身しました。勘兵衛・与兵衛の父子は当地の塩田開発にもいち早く取り組み、同時に営んだ廻船問屋も繁栄し財を成します。

万宝寺の前身は中村家の通称「米屋屋敷」の隣にあった「萬寶庵」という観音堂で、中村与兵衛によって中村家の菩提寺「万宝寺」へと改められました。現在残る本堂は1696年（元禄9年）の建築、その本堂を皮切りに中村家の援助によって伽藍が整えられます。

その本堂の奥、本堂・庫裡の書院から眺められる池泉鑑賞式庭園があります。心字池を中心として、奥には築山を、そこには庭園の主木となるソテツが植栽、その手前には立石を中心とした三尊石、石組が配されています。
特徴的なのはソテツ。京都の江戸時代初期以前の庭園でも『桂離宮』や『西本願寺（虎渓の庭）』、『一休寺』等があるけれど、当時は珍重されたとも言われます。一方で四国や九州の温暖な地域では古庭園にも割と見る植物、例えば淡路島の文化財庭園『妙勝寺庭園』も築山の上にドーンとソテツがあって、（地域的にも若干の）近さを感じる。その先の大日山の借景は夕暮れ時でも美しい…！

作庭した人物としてお寺に伝わるのが茶人・杉木普斎。「この方の作庭と伝わっている」という事がこの庭園の大きな価値／興味深い所で！

千利休の“侘び茶”を引き継ぎ、「三千家」（表千家／裏千家／武者小路千家）の祖として茶の湯の普及に努めた千宗旦。その門弟の中で特に活躍した4人は“宗旦四天王”と呼ばれ、宗徧流・山田宗徧（各地に文化財庭園も残している）、藤村庸軒（国指定文化財庭園『居初氏庭園』が知られます）らと名を連ねるのが杉木普斎。

伊勢国『伊勢神宮』外宮の神職（御師）という家柄の杉木普斎は15歳の若さで千宗旦に弟子入り。やがて宗旦から「宗喜」の号をもらい、千家流茶道の真髄を体得した後は、御師として日本各地に赴くとともにその出先でお茶を広め《神都に数寄者あり》と謳われたとか。
中でも御師としての（現代風に言うと）お得意先だったのが播州・網干。網干の豪商・佐々木家（灘屋）は門人＆パトロンとして普斎を支え、その佐々木家と繋がり深く門人となったのが中村与兵衛。

そんな茶人ゆかりのお庭なので、鑑賞式庭園ながら茶室へと至る露地としての機能もあり、池の周りを飛び石が巡らされています。庭園の東部にあるお茶室、現在のものは新たに再建されたものですが、窓を大きく取り庭園の眺望が重視されている（また大日山の景色を遮らない屋根の高さも絶妙！）

ちなみに茶道普斎流はWikipediaの茶道の項にも宗徧流や久田流と並び記されていますが、「現存するか不明」とある。茶道の歴史は途絶えても、庭園は残る——尚のこと貴重な庭園、ぜひ播州の庭園めぐりで訪ねてみて。

（2024年12月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）