旧万徳院庭園

Kyu-Mantokuin Temple Garden, Kitahiroshima, Hiroshima

戦国大名・毛利氏の重臣として有名な吉川元春の子で元春と共に活躍した武将・吉川元長が別邸とした寺院から発掘された庭園。国指定名勝。

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旧万徳院庭園について

「万徳院」(まんとくいん)は戦国大名・毛利元就の重臣としても有名な戦国武将・吉川元春の子で元春の後の当主・吉川元長が建立された寺院(別邸)。
『吉川元春館跡庭園』から約1.5km(徒歩20分)程の距離に位置し、吉川元春館跡と同じく庭園が『旧万徳院庭園』として国指定文化財(国指定名勝)。「万徳院跡歴史公園」として広く公開され自由に見学できます。

時々“文化財の庭園を優先的に見に行く”と書いていますが、広島県北広島町の2つの国指定名勝は公共交通機関で訪れるのが困難で行けてなかった(*一応少ないながら地域のコミュニティバスはある)。
で、ごく近年に北広島町の入口・千代田ICの観光案内所がレンタサイクルを開始。片道10km&多少の登り坂はあるけど時間に融通が効くこの方が都合が良い。これを利用して2022年7月に初めて訪れました。

元々は駿河国の出で、鎌倉時代に地頭としてこの北広島の地に入った後に土着した武家・吉川氏。戦国武将・吉川元春は元は毛利元就の次男で、吉川家に養子に入り家督を継ぎました(吉川氏を乗っ取ったとも)。
その後の吉川元春は大内氏や尼子氏との中国地方の覇権争いの中でも主力として活躍、小早川隆景とともに“毛利の両川”と呼ばれました。

そんな吉川元春の嫡男が吉川元長。毛利元就にとっても孫にあたり、従兄弟であり後の大名・毛利輝元とともに尼子氏との「月山富田城の戦い」で初陣を飾りました。以降は元春とともに数々の戦いに参戦。

吉川元長が1574年(天正2年)頃に吉川氏の居城・日山城の麓に築いた寺院が『万徳院』。宗派に関係なく広く学ぶ“諸宗兼学”の寺院で、宗派問わずに万の神仏の加護により徳を得る…という思いが寺名に込められています。

年代で言うと吉川元春館跡より10年近く早く建立された万徳院は実質的に吉川元長の別邸として長く用いられました。吉川元長が早死にした後にその後を継いだ弟の吉川広家により「吉川家の菩提寺としてふさわしい規模の寺院」として整備。長い参道や石垣、国指定名勝となっている庭園はその際に築かれたもの。

一度は完成した万徳院ですが、吉川広家が拠点を北広島→月山富田城→江戸時代から岩国藩…と移したのに伴い、寺院は岩国へ移転。岩国の万徳院は現在まで続く一方で、当初の万徳院は破却されその後の400年間は山の中に放置・荒れるがままの状態に。

昭和の末期に吉川元春館跡や日山城跡などとともに「吉川氏城館跡」として国指定史跡になった後、平成年代のはじめの1991年から発掘調査が開始。その結果、各建築の跡(本堂跡・庫裏跡)や庭園跡、版木などの多くの遺物が見つかりました。(出土品は「吉川元春館跡歴史公園」内にある『戦国の庭 歴史館』に展示)

現在見られる2つの建築、万徳院跡ガイダンスホールは当時の本堂の規模をそのまま再現したもの、そして庭園の一角には「風呂屋」という蒸風呂…今で言うサウナが再建されています(なんで風呂屋にしたんだろ…)。毎月第3日曜(12月・1月・2月を除く)には蒸風呂入浴体験も。

ガイダンスホールから長い参道を進んだ先に庭園はあります。
…それにしてもただでさえ人口が少ない地域なのに、更に山の中を切り拓かれて建立された寺院なのでマジでひと気ゼロ…長い参道も物音も緊張感ある。24時間常時公開だけど、夕方に暗くなり始めた以降の訪問はあまりオススメできない。人よりも獣の方が多く来園されているはず…。

石垣の上のかつての本堂跡の左手側(西側)と正面(北側)に庭園が残る。本堂西庭が主庭の池泉鑑賞式庭園。山からの自然の水を蓄えた横長の池泉の中に、船に見立てた中島が配された庭園で、島根・益田の雪舟庭園『万福寺庭園』や京都の『妙心寺 退蔵院』の“元信の庭”との類似性が指摘されています。

本堂北側、木塀に囲われた坪庭がもう一つの庭園。戦国武将ならもっと立派な中庭も作れそうなのに、あえてのこの小さな庭。石組の作風や手前の直線的な敷石は『吉川元春館跡庭園』の主庭を凝縮したような感じ。

戦国武将によって築かれた(館跡ではなく)“寺院庭園”として貴重な庭園…で、この公園のために観光バスが通れる道路も整備されているものの、前述の通りひと気はなく獣に掘られた跡も散見される状況。少子高齢過疎が進む地域での庭園の維持の難しさを感じる…。それでもせっかく400年ぶりに日の目を見た歴史的庭園。吉川元春館跡庭園とあわせて訪れてみて!

(2022年7月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

中国自動車道 千代田ICより約10km *道の駅にレンタサイクルあり
中国自動車道 千代田ICよりホープバス豊平千代田線/総企バス千代田芸北・金城線「海応寺」バス停下車 徒歩15分(平日・土曜のみ。本数も少ないので下調べを。)

〒731-1505 広島県山県郡北広島町舞綱 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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