3つの異なる庭園が体感できる出雲の庭園文化の象徴的施設。島根を代表する豪農の明治時代の屋敷と出雲流庭園。
出雲文化伝承館(旧江角邸)について
「出雲文化伝承館」(いずもぶんかでんしょうかん)は“出雲の文化と伝統を今に伝えます”をキャッチフレーズに、出雲市が100%出資の出雲市芸術文化振興財団により運営されている文化施設。敷地内には出雲市指定文化財(有形文化財・建造物)となっている明治時代の“出雲屋敷”や、茶室研究家・中村昌生さんにより再現された松平不昧公ゆかりの茶室・露地“独楽庵”があります。
2020年秋の島根県庭園巡りで初めて訪れました。そして約30箇所巡った中で…“豪農の出雲流庭園”、“絵図を下に再現された不昧公ゆかりの露地(独楽庵庭園)”、“京都の有力作庭家が手掛けた茶庭(松籟亭庭園)”と3つの異なる庭園が見られるここは、最も良かった場所と言っていいかもしれない。ここでは“出雲屋敷”の庭園を紹介。
『原鹿の旧豪農屋敷』でも登場した、島根県/出雲地方を代表する地主農家だった江角家。本家は幕末には郡役人をつとめ、明治時代には現在の出雲市の東部・斐川町の新田開発で栄え町長などもつとめました。
現在出雲文化伝承館で見られる“出雲屋敷”と長屋門は1896年(明治29年)に建立された邸宅の一部が移築されたもの。その屋敷の風格は勿論素晴らしいのですが、個人的に驚くのは…移築された範囲は元の屋敷の1/4程度なんですけど、“元の主庭(出雲流庭園)がまるっと移築されていること”。
“古建築を保存のため移築された”系施設って、やはり最重要なのは建物なので、庭園も移されたということは殆どない。あっても少しだけ石灯籠が移設されているとか。それが普通。
なんだけど、ここでは“移築・再現範囲は庭園の方が広い”。移築先の敷地が10だとしたら、普通は建物8、庭が2とかになるところを、ここでは庭園を8、建物を2の割合で移してる。(別に庭園は文化財指定されていないのに)
それが「はーーーすごい!」と思ったし、出雲地域に残る“庭園文化”の深さ・強さを実感した。もっとも施設の開館が1991年(平成3年)、バブルが終わる前に計画が進んでいたからこそそのような決断ができたのかもしれないけど…。
主屋の座敷から眺められる、小砂の中に短冊石や飛び石を配した独自の枯山水庭園“出雲流庭園”。屋敷と同じく明治年代に八代目千代次郎により作庭されたもの。ここからは『原鹿の旧豪農屋敷』と同じ感想だけど、江戸時代に“座敷からの鑑賞式と、茶室への導線を備えた”形で生み出された庭園の型が、また違う形で発展を遂げているのが見て取れる。
『菅田庵』や『観月庵』の頃にあった露地っぽさが、ここでは全然無い。純粋なる“めちゃくちゃ広い枯山水庭園”なんだけど、この広さに白砂を敷き詰めちゃう庭園って(京都の世界遺産寺院、たとえば『仁和寺』とかを除けば)他の地域にはない。余計なものが削ぎ落とされた空間。かっこいい。主木のクロマツを中心に、常緑樹中心の植栽もこの白砂の庭園に似合う。
唯一残念な点を挙げるとすればーーこの回遊式庭園を回遊できないことかな(笑)(*屋敷の中だけではなく、敷地内のお蕎麦屋さんからも眺めることができて、そこではまた違う視点が楽しめます)
出雲文化伝承館そのものは敷地内にそば屋さんや展示館があり、そして創作体験のできる“出雲文化工房”や“縁結び交流館”が隣接。ほんと無料じゃ勿体ない庭園なので、お蕎麦屋さんや次に紹介する『独楽庵・松籟亭』の茶席でお金を落とすことを強く推したい…。
(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
一畑電車大社線 浜山公園北口より徒歩18分
JR山陰本線 出雲市駅より約5km(駅にレンタサイクルあり)
出雲市駅より路線バス「常松町」バス停下車 徒歩18分
〒693-0054 島根県出雲市浜町520 MAP