創業500年に迫る老舗旅館で満喫する“現代アート”とリトリート。世界的な現代美術家・菅木志雄が作庭した5種のアートな庭園と個人美術館。
板室温泉 大黒屋庭園/菅木志雄倉庫美術館について
【美術館は完全予約制】
「板室温泉 大黒屋」(いたむろおんせん だいこくや)は那須温泉郷の一つ・板室温泉にある、室町時代の1551年創業の老舗旅館。そのコンセプトは“保養とアートの宿”。世界で人気をほこる現代芸術家・菅木志雄の個人美術館『菅木志雄倉庫美術館』を併設するほか、その庭園も菅木志雄による作庭。
現代美術家の庭園としてイサム・ノグチ/横尾忠則/杉本博司/流政之/名和晃平/石上純也さんらが作庭の庭園を紹介してきました。今回紹介する菅木志雄さんも《もの派》の代表的な現代美術家として李禹煥らと並び称される存在。
2010年代には国内では東京都現代美術館や『ヴァンジ彫刻庭園美術館』で展覧会を開催、海外でもイタリア・ミラノ、イギリス・スコットランド国立近代美術館で大規模展覧会が開催され、2023年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)でも作品が展示されました。ぜひこの庭園は、菅木志雄さんの作品鑑賞を経験されたことがある方に足を運んで欲しい場所。
新幹線の停車する那須塩原駅でバスで約50分程の山間にたたずむ板室温泉。平安時代の開湯以来、古くから“那須七湯”にも数えられる湯治場として知られ、現在も温泉街には国登録有形文化財の旅館なども。そんな板室温泉で1551年(天文20年)に創業したのが大黒屋。現在は17代目のご当主が宿を引き継がれています。
そんな老舗温泉旅館のもう一つの顔が“現代アートな旅館”。菅木志雄さんとの関係性は後述として、館内のパブリックスペースでは現代の作家による企画展が年間を通じて開催され、館内/館外にさまざまな現代アート作品が展示。
裏庭には人間国宝・勝城蒼鳳さんの作品、玄関前には当サイトで京都『法然院』のガラス枯山水庭園を紹介したガラス造形作家・西中千人さんによる『水琴窟-ガラスの庭-』も(写真13枚目)。また菅木志雄さんやギャラリスト・小山登美夫さんを審査員に迎えた現代アート公募展も開催されていました。
『菅木志雄倉庫美術館』(※完全予約制・毎日10時〜の案内のみ。/宿泊者以外でも予約可能)について。2008年開館。菅木志雄の1980年代から現在に至るまでの約300点の作品が常設展示されています。
現在では世界的な評価を得ている菅木志雄さんですが、そこへ至るまでの制作活動を支えたのが大黒屋。1991年に庭園の一つ「天の点景」の制作と個展の開催以来、2014年まで定期/不定期で新作展を開催。またその間に庭園「間の相景」「空聞見石庭」「風の耕路」「集空庭」が作庭されました。
公式サイトには「スタッフが案内します…」とあるけれど、今回は菅さんのパトロンとなった16代目当主の室井俊二会長直々に美術館と庭園をご案内いただけたので驚き…。
■集空庭(しゅうくうてい)(3〜4枚目)
表玄関へと至る3つの庭園は空海が説いた森羅万象の根源である六大(地・水・火・風・空・識)がテーマ。複数の鏡が空と鑑賞者自らを移す“集空庭”がまず来館者を迎えてくれます。
■天の点景(5〜7枚目)
「人」の字のように支え合うオブジェが印象的な「天の点景」がこの庭園、この旅館、天や宇宙へ向けた中心。自然石の石組も独特な世界観を醸します。
■風の耕路(1、16〜18枚目)
3本の木で組まれた門。公式な説明としては風の通り道とのことだけど、その場に居るとさまざまな景色を切り取ることができます。自然石の上にずれて配されたオブジェもこの庭園の作品の一部。
■間の相景(22〜23枚目)
この作品は本館から少し離れた、長期滞在用の東の館の並びにある石庭/彫刻庭園。背後の渓谷の景と相まってこれがまためちゃくちゃかっこいいのです。
この庭園について、菅さんは著書『世界を〈放置〉する: ものと場の思考集成』で回想されていて、その独特な世界観と作庭意図を説明されています。興味ある方はぜひ合わせてチェック。
「庭園喫茶」では「風の耕路」を眺めながらお茶やスイーツ、お食事をいただくことも。菅木志雄さんの作品を個展などであらかじめ体験しておらず「庭園」という目線のみで鑑賞した場合にどう感じるかは未知数ですが…、アート好きの“リトリート”にぴったりな温泉宿。ぜひ訪れてみて。
(2023年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)