一畑薬師(一畑寺)本坊庭園

Ichibatayakushi Temple Garden, Izumo, Shimane

眼病治癒祈願で全国に信仰される“一畑薬師”の通常非公開の庭園は宍道湖と中国山地の借景が美しすぎる…その茶室は大名茶人・松平不昧も建築に関与?【団体予約制】

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一畑薬師(一畑寺)本坊庭園について

【庭園は10名以上の団体予約で拝観可】
「一畑薬師」(いちばたやくし)の通称で知られる、島根県出雲市にある臨済宗の寺院「医王山 一畑寺」(いおうざん いちばたじ)。平安時代に創建された古刹で、“目のお薬師さま”として島根・出雲のみならず全国に広く信仰されています。中国三十三観音霊場第26番札所。寺宝の「紙本墨画著色書院障壁画」「絹本著色阿弥陀三尊像」が島根県指定文化財。通常非公開(10名以上の団体予約制)の本坊・書院に宍道湖を借景とした美しい庭園があります。

これまでも島根県/出雲国の“名園”を色々と紹介してきましたが、この庭園もその候補の一つ――借景のスケールで言えばNo.1かもしれない…!前述の通り【10名以上の団体予約制】で個人では通常非公開の庭園ですが、毎年秋に行われている『一畑薬師茶会』でこの書院・庭園と茶室「東陽坊」がその舞台になります。

松江市/国宝『松江城』と日本を代表する神社『出雲大社』(とJR出雲駅)を繋ぐローカル線「一畑電車」(ばたでん)。その名の通り、開業時には一畑薬師への参拝客を主なターゲットとしていて、その玄関口「一畑口駅」は始発・松江しんじ湖駅~終点・出雲大社前駅のおおよそ中間点に位置します。お寺まではそこからローカルバスに乗換。一気に標高200メートルまで駆け上ってくれます!石段にすると1,300段!その石段もこのお寺の名物(体力自慢の方はぜひ)。

お寺の歴史について。創建年は平安時代の894年(寛平6年)。その時代に一畑山の北麓の日本海岸に住んでいた漁師・与市。ある日の漁で海から金色に輝く薬師如来像を引き上げます。それ以来、与市の周りでは様々な事が起こり(詳しくは一畑薬師の公式サイトを)、やがて二人暮らしだった盲目の母親の目が治癒。与市は更にその薬師如来に導かれた場所=一畑山の中腹に薬師堂を建設。比叡山延暦寺で出家・修行し「補然」の名に改め、一畑寺の前身となる天台宗『医王寺』を開きました。

以降、眼病治癒祈願のお寺として各地に信仰が広まり、戦国時代には当地の大名・尼子氏、毛利氏、江戸時代には藩主・京極氏、松平氏にも保護されます(その過程で臨済宗へと改宗)。そして出雲国のみならず全国各地にも一畑信仰は広まり、今日でも全国に50箇所程の分霊所(分寺)があるそう。
ちなみに、現代では水木しげるさんも一畑薬師を参詣した一人(水木しげるさんのお手伝いさんで、エッセイ・作品にもなった「のんのんばあ」が熱心な信者だったとか)。その縁から、二人(のんのんばあと水木しげる少年)のブロンズ像や、「眼病治癒のお寺」という所で「目玉のおやじ」像も設置されています。

唐破風屋根が特徴的な巨大な本堂(本尊・薬師如来が安置)は明治時代に再建された建築。参道から右手側にある観音堂も立派で、一畑観音様も中国三十三観音霊場の第26番札所に数えられます。鐘楼も現在の姿になったのは明治時代ですが、元々は桃山時代に毛利輝元の陣屋で用いられたものなのだとか。

本堂・観音堂から石段を降りた先にあるのが法堂と本坊。この本坊に、冒頭に書いた通り団体予約制で拝観できる庭園があります。書院の深い庇、赤みを帯びた来待石、お庭の中の飛び石の感じ…当地の“出雲流庭園”のデザイン的な特徴も見せつつ、とにかく素晴らしいのが宍道湖を見下ろし、その先に中国山地をのぞむ借景!

この本坊/書院庭園/茶室は、大名茶人として近代以降の数寄者/茶人に多大な影響を与えた松江藩主・松平不昧の生前(隠居していた時代)の建築(文化年間)。松平不昧が関わったという史料はない(?)ものの、茶室「東陽坊」は表千家の『残月亭』の写しながら、松平不昧の好みも反映されているとか…となると庭園も不昧公好みのはず…?同じ出雲地域の『康国寺』『峯寺』、松江市の国指定文化財庭園『菅田庵』、更に言うと江戸の幻の名園『大崎園』の様な山深いロケーションからの風景を好んで設計されていると言えるかもしれない。(中でも峯寺は雰囲気が近いかもしれない)

ちなみに。近年開かれた一畑薬師の樹木葬「瑠璃庭園」は人気庭園デザイナー・石原和幸さんの監修なのだそう。参拝した際は合わせてチェックしてみて。

(2022年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

一畑電車 一畑口駅より約5km
一畑口駅より路線バス「一畑薬師」バス停下車 徒歩10分弱

〒691-0074 島根県出雲市小境町803 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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