
2025年で見納め…?世界的建築家集団・WATG設計のリゾートホテルに昭和の造園家・小形研三が作庭した広大な庭園とランドスケープ。槇文彦設計の美術館も。
指宿いわさきホテル 日本庭園について
「指宿いわさきホテル」(いぶすきいわさきほてる)は鹿児島県指宿市の海岸沿いに建つリゾートホテル。昭和時代中期に竣工した近代的な宿泊棟の設計は、世界各国にリゾートホテルを手掛ける建築家集団:ウィンバリー・アリソン・トン&グー設計事務所(WATG/Wimberly Allison Tong & Goo)と浦辺建築事務所。その建築を囲む大規模な庭園は“雑木の庭”を提唱した昭和を代表する作庭家・飯田十基の流れを汲む小形研三(東京庭苑)による作庭。園内にある『岩崎美術館』はプリツカー賞受賞建築家・槇文彦の設計。ホテル・美術館の建築は文化庁による、文化財としての価値が見込まれる「近現代建造物緊急重点調査(建築)」にも選定。
“砂むし温泉”が有名かつ温暖な指宿市は、様々なスポーツ、特にサッカーのキャンプ地/合宿地としても人気。この指宿いわさきホテル2025年もJリーグ:柏レイソルと湘南ベルマーレのキャンプ地となっていました。
大規模な庭園を見る為にいつか訪れたいと思っていた指宿いわさきホテル、2025年始めに初めて訪れた――のですが、なんと2025年6月1日をもって長期間休館および大規模工事が発表されています。美術館・工芸館を除き、老朽化した既存の大半は取り壊し…とも報じられているので(〈詳報〉コロナ禍後も団体旅行は不振、富裕層向け「ヴィラ中心のリゾート」へ転換 指宿いわさきホテル、休館は「数年の間」【南日本新聞】)、建築ファンや飯田十基~小形研三の流れを汲む関係者の方には今のうちに訪れて欲しい…。
その歴史について。鹿児島県を代表する企業グループ「いわさきグループ」、その起源は1922年(大正11年)に創業した「岩崎商店」。当初は材木商だった創業者・岩崎與八郎は戦前~戦後に掛けて一代で商売を広げ、鉄道・バス・フェリー等の公共交通事業への進出や、昭和時代中期以降は観光開発/ホテル経営にも力を入れていきます。
1956年(昭和31年)にオープンした「指宿観光ホテル」を前身として、1972年(昭和47年)に完成したのが「指宿いわさきホテル」。《西太平洋一の偉容を誇る豪華な大リゾートホテル》と言われ、15万坪の敷地は南国風のパームツリーに囲まれ、人工ビーチ、砂むし温泉、美術館、2面のサッカー場とテニス場、グラウンドゴルフ場、そして長年人気を博したジャングルプール(ジャングル風呂)等が点在。
岩崎與八郎自ら選定した設計者はハワイのリゾートホテル等で実績のあったウィンバリー・アリソン・トン&グー設計事務所(WATG)。WATGは現在も世界各国にリゾートホテルを手掛けており、日本の他の作品としては「東京ディズニーランドホテル」等も。また、倉敷美観地区で多くの建築を手掛けた建築家・浦辺鎮太郎率いる浦辺建築事務所(現・浦辺設計)が共同設計として参画。
そしてランドスケープはハワイのランドスケープ・アーキテクト:レイモンド・ケイン(Raymond Cain/所属:ベルト・コリンズ/Belt Collins)のマスタープランを具現化したのは、昭和の造園家・小形研三(東京庭苑)。都市部の“雑木の庭”とは全く作風が異なる、南国リゾートを体現したこの庭園は15万坪の敷地に5万本もの植物が植栽。
今回紹介する写真は冬の姿で花は菜の花畑ぐらいしか紹介できないけれど、春~夏にかけてハイビスカスやブーゲンビリアなど温暖な指宿ならではの花々が庭園を彩るそう。
一体果たして、この近代的な建築&南国リゾート庭園の中に“日本庭園らしさ”はあるのかな…?と思っていたのですが……あった……!
まずはホテルのエントランスやロビーからも眺められる、カーブを描く3つの棟の中庭。パームツリーが南国リゾート感を漂わせるけど、サツキを中心とした刈り込みの中を自然風の“流れ”が。(※現在は水は流れていない)
その流れが黒ボク石の見える大きな滝を経て、地下2階部分にある池泉へと注ぎ込む(※現在は水は溜まっていない)。この池泉庭園は非対称な池泉、自然石による沢渡石、背後に伸びるマツ、手前にある枯山水的な配石…などだいぶ“日本庭園”的なデザイン。借景となっているモダン建築との調和がものすごくユニーク!
そしてこの池泉庭園の先に広い芝生のお庭が広がり、その先には海辺が見えてくる――そして芝生の中には、水底が水色、州浜ではなくリアルな砂浜を模した池泉庭園も(現在は鑑賞用に見えるけれど、かつては人工ビーチとして中に入っていけたのかもしれない)。ホテルの宿泊棟に沿って蓮池があり、見上げると本館のベランダにはマツ・ソテツなど亜熱帯植物が見えて南国感が漂う。
庭園の一角にある『岩崎美術館』はホテルから遅れること9年後に1983年(昭和58年)に開館。設計は世界的建築家・槇文彦で、この作品は「日本建築家協会25年賞」を受賞。いわさきグループ創業者・岩崎與八郎が収集した美術品(主に近代絵画)と、併設する工芸館にて西郷隆盛、大久保利通、東郷平八郎、五代友厚といった郷土の偉人の書画を展示しています。
長期休館や大規模改築を控えている事実も含め、庭園も往時からはかなり姿が変わっているのだろうな――。大規模改築で、このモダン建築と一体化した庭園がどこまで残されるかは不明だし、未来の「新たな名庭園」の誕生にも期待を抱かされますが、「小形研三の庭園」を見るならば今行くしかない!
(2025年1月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
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