東山旧岸邸

Higashiyama Former Kishi Residence Garden, Gotemba, Shizuoka

吉田五十八が晩年に手掛けた近代数寄屋建築と、岩城亘太郎の“流れ”を主体とした庭園―この空間美は現代版“無鄰菴”。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

東山旧岸邸について

「東山旧岸邸」(ひがしやまきゅうきしてい)は昭和の戦後に内閣総理大臣を務めた岸信介が晩年を過ごすため1969年に建てられた別邸。その設計を昭和を代表する建築家・吉田五十八が担当、庭園はホテルニューオータニの日本庭園などを手掛けている岩城亘太郎による作庭。2021年7月に新たに国登録有形文化財に答申。

あわせて訪れた『秩父宮記念公園』からは1km強。前々から行きたいなーと思っていたのですが、ようやく初訪問――そして本当に素晴らしい場所だった!

第56・57代内閣総理大臣を務めた岸信介は戦前から旧満州国の経営に携わり、戦後は日米安保条約の改定に尽力するなど長年要職を務め上げた政治家。ちなみに現在の安倍晋三首相は岸の孫にあたります。
岸の晩年は亡くなるまでの17年もの間、この御殿場の別邸で過ごしました。2003年に長女の安倍洋子(安倍首相の母親)により御殿場市に寄贈され、2005年より一般公開が始まりました。

吉田五十八に岩城亘太郎――目的はどちらかと言えば岩城亘太郎の庭園だったのですが、この施設・庭園の素晴らしさは吉田五十八建築無しには語れない。(『湘南邸園文化祭』で生まれた造語『邸園』を用いて語りたい!)
吉田五十八建築を初めて意識したのは東京都世田谷区の『成城五丁目猪股庭園』。あちらも邸宅と庭園がとてもシームレスに感じられるのが素晴らしい空間だった――
そしてこの五十八の晩年の作となる近代数寄屋建築の旧岸邸。リビング・食堂と庭園の目線の低さというかすぐお庭が飛び込んでくる感覚がもう――やっぱ吉田五十八建築ヤバい。(語彙力…)

岩城亘太郎(岩城千太郎・岩城造園)作庭の池泉回遊式庭園は富士・箱根の麓の自然をそのままに、小川を主体としたもの――この小川が流れる庭園と名建築は、岩城亘太郎の師匠・7代目小川治兵衛の手掛けた名園を引き合いに現代版『無鄰菴』――なんて表現したいけど、いかがでしょう。
ちなみに小川治兵衛が庭園を手掛けた静岡の『浮月楼』に吉田五十八設計の建築があったとされるので(建物は焼失)、この吉田五十八と植治・岩城亘太郎は仕事のパートナーとして関係性があったのだと思います。

純和風建築&純和風庭園!!という組合せではないので、写真だとなかなか魅力が伝わらない気もするんですが、玄関を抜けてリビングと食堂の向こうに庭園風景が飛び込んできた瞬間に、吉田五十八神だわーと思いましたね。感想が雑なのはそれぐらい素で「素晴らしい!」と興奮したからだ、というのが伝われば何より。あと今回訪れた際には江戸時代に描かれた「百椿図」にちなんだ園芸展「椿展」も開かれていて、邸宅内で椿の花も楽しむことができました。

御殿場市は2008年以降、旧岸邸を含む一帯を「御殿場東山ミュージアムパーク」という観光施設として整備を進めており、旧岸邸と同じ敷地内には和菓子の老舗・虎屋による「とらや工房」もあります。設計は内藤廣。ちなみに旧岸邸も現在は虎屋のグループ会社・虎玄(TORAYA CAFEなどの運営主体)が指定管理者を勤めているそう。この名建築…今あるうちに是非見てほしい!

(2019年4月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR御殿場線 御殿場駅より約3km(徒歩40分)※駅前にレンタサイクルあり
御殿場駅より路線バス「東山」バス停下車 徒歩3分
※その他、御殿場駅には行かない箱根発・御殿場プレミアムアウトレット行きのバス等が「東山旧岸邸前」バス停に停車

〒412-0024 静岡県御殿場市東山1082-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
PICK UP / COLUMN
最新の庭園情報は約10万人がフォローする
【おにわさん】のSNSから。