願心寺庭園

願心寺庭園について

【庭園見学は事前連絡推奨】
「清涼山 願心寺」（がんしんじ）は宮崎県都城市の浄土真宗本願寺派の寺院。明治時代～大正時代に建立された本堂と山門が国登録有形文化財となっており、伽藍の奥には本堂と同じ明治時代に作庭された日本庭園が残ります。京都で修行した奈良の庭師・梅本栄次郎による作庭。

薩摩国／日向国／大隅国〜薩摩藩を長きに渡り治めた大大名・島津氏の発祥の地・都城。その中心部には『都城島津邸』とその庭園も残ります。
そんな中心市街地から北西に約7～8kmに位置するのが願心寺。その距離や最寄駅からの距離だけで言えば「なんにもなさそう」な場所。なのですが、都城市に編入した旧「荘内町」の中心部に建ち、同じく国登録有形文化財の古民家カフェ『もちなが邸』もお寺の並びにあります。

その歴史について。創建は1878年（明治11年）、この地に創設された説教所をその起源とします。
いわゆる伝統宗教のお寺としては比較的新しい——これには実は薩摩藩ならではの理由がある。薩摩国・島津氏は戦国時代の終わり頃、浄土真宗の信仰を禁止（その理由は本州での一向一揆の影響から）。その弾圧は江戸時代を通じて続き、薩摩藩には「隠れキリシタン」ならぬ「隠れ念仏」と呼称される「人目につかない場所で浄土真宗を信仰するカルチャー」があったのだそう。願心寺の近隣にも都城市指定文化財（史跡）の『平田かくれ念仏洞』が残ります。

明治維新を迎え、廃仏毀釈が過ぎ去った後に晴れて旧・薩摩藩内でも浄土真宗の信仰が解禁。旧・薩摩藩領での布教は京都の本山が力を入れていたそうで、1906年（明治39年）に竣工した本堂も一見伝統的な寺院建築（浄土真宗本堂）のようで、一部にペディメントを付けた洋風のガラス窓を巡らせたり、シャンデリアがあったりと、そのオシャレな、瀟洒なデザインが当時の力の入り具合を感じさせます。

棟梁は鹿児島の中村辰次郎。鹿児島市内では洋風建築が多く手掛けられ始めた時代、その影響が反映されているとも言えるし、一方で鹿児島の中心部とその周辺には文化財となっている古い寺院建築は無い…という意味では貴重な建築。尚、大正時代に竣工した山門は熊本の棟梁。

本堂と前後して明治時代に建築された庫裏・書院の前に庭園が広がります。1907年（明治40年）の書院の竣工に伴い、京都で修行した梅本栄次郎という庭師が招かれ作庭。書院から見て、手前には飛び石、正面奥に2つの大きな築山。左手にもう一つの築山と小さな池泉が配された池泉回遊式庭園で、正面の築山上の四阿からは地域の名山「高千穂峰」が眺められます（庭園からでなく周辺の田んぼ辺りから北を見ると高千穂峰が間近に見られる）。

当初は“近江八景”を模したものだった、と伝わるそのデザイン。その築山の緩やかさは『水前寺成趣園』の様な雰囲気も感じるし、庭石にところどころ奇石が用いられているのは霧島市の『旧田中家別邸の庭園』とも雰囲気の近さを感じる。梅本さんは現段階ではこの庭園でしか名前が出てこない庭師ですが、奈良に居た…という点も加味すると築山上からの流れは『依水園』の様な雰囲気も持ち合わせているかも。

奇石の中でも特に貴重なのが右手側の築山の上の“甌穴”のある化燈籠で、都城の名滝「関之尾滝」から採出されたものを、薩摩国出身の政治家／男爵・前田正名から寄進されたもの。
昭和の戦時中に防空壕が作られたり、そこからの復興の過程で改変はされているものの、戦後には浄土真宗本願寺派の門主・大谷光照さんも度々訪れたことから、まさに地域の中心寺院の、それに相応しい格を持つ庭園。

ごく最近も、鹿児島に訪れた京都の文化財庭園の庭師がこのお寺に立ち寄りお庭が好きな先代ご住職と談義されたとか。今回の写真は冬なので見頃の花がない時期でしたが、2月も過ぎると梅を皮切りに、桜、ツツジ・サツキ、青々した芝生…と四季の花々がお庭を彩ります。ぜひ南九州を訪れた際に立ち寄って欲しいお庭！

（2025年1月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）