福武トレス「時の庭」

福武トレス「時の庭」（旧福武書店迎賓館・庭園）について

【完全予約制】
「福武トレス／FUKUTAKE TRES」（ふくたけとれす）は福武書店／現・ベネッセコーポレーションの創業者・福武哲彦が岡山市に造営した迎賓館を前身とする庭園施設。庭園は『福武書店迎賓館』の庭園として、昭和を代表する作庭家・飯田十基の流れを汲む小形研三（東京庭苑）が作庭した“雑木の庭”を、現代の作庭家「荻野景観設計」荻野彰大さんにより再生されました。2024年グッドデザイン賞受賞。

岡山市中心部の北側にそびえる半田山の麓。岡山大学、岡山理科大学と二つの大学に囲まれたような住宅街に現れる迎賓館――その前身は日本を代表する教育関連企業の礎を築いた福武哲彦さんが昭和時代半ばより構想を始め、氏の最晩年の1985年（昭和60年）に自邸内に完成した「福武書店迎賓館」。

以来30年以上経過し景色も変わった中で、ご息女・福武美津子さん（福武トレスプロデューサー／福武總一郎さんのきょうだい）の意志にて、旧・迎賓館の和風建築を中心とした庭園の姿を復元しつつ、新たな命を吹き込むプロジェクトが始動。旧・迎賓館＝「Fサロン」に加え、「Fギャラリー」「Fスタジオ」と3つの建築と庭園からなる「トレス」（＝スペイン語で「3」）へと生まれ変わりました。2024年5月より完全予約制での一般公開もスタート！

入場門を入ると、新たに建てられた現代建築「Fギャラリー」が目に飛び込んできますが（そしてこちらの方が人気かもしれないけれど）、それについては後述…「福武書店迎賓館・庭園」の中心、ビューポイントになるのは和風建築「Fサロン」。

■Fサロン（主に6〜22枚目）
印象的な門柱、石人像、百済式石造層塔にいざなわれつつ玄関に入ると、足元は外の植栽の風景が飛び込んでくる仕掛けが。そして主座敷からは庭園とその先の岡山市内を一望できる眺めを満喫できます。
南方には池泉回遊式庭園が、西側には枯山水庭園とタイプの異なるお庭があり、建物内に居ても視覚的に色んな楽しみ方ができる――そして庭園へと出ると、半田山を借景とした雄大な景色を眺められる！

海外にも日本庭園を残され、業界では有名な造園家だった小形研三さん。その中でも重要作品と言われていたのがこの庭園――なのですが、一般に開かれていたお庭ではなかったので建築の増築などでだいぶ当初のお庭からは変化していたそう。
庭園専門誌『庭NIWA』の昔の号に掲載されていた写真や当初の設計図を手掛かりとして、元の骨格と植栽を復元しつつ、現代に合う植栽に一部アップデートされ庭園が再生されました。荻野さん以外にも多くの庭師が関わった庭園再生、その協力者さんを荻野彰大さんがInstagramに書かれておりますので併せてそちらもご覧ください。

■Fギャラリー（主に23〜32枚目）
敷地の中心部、今回新たに建築されたのが「Fギャラリー」。武井誠＋鍋島知恵/TNAの設計。半田山の山裾に沿って浮かぶように組み合わされた不等辺三角形の鉄板たち…いわゆるコンクリートの基礎ではなく、懸造りを現代的に実現したその斬新な建築のコンセプトは「森に消える建築」。その浮かんでいる鉄板の下もお庭の植栽や水の流れがあり、「庭と一体化した建築」の新たな形が示されているかのよう。

ガラス張りで木々の中に居るような感覚の室内では、福武哲彦さんがコレクションした美術工芸品（とても印象的な場所に土門拳さんの作品が掲げられている）や愛用品、古文書を鑑賞したり、お茶しながら本を読んだりとくつろぐことができます。（カフェセットが予約時に選択可能。）

最後のもう一つ、「Fスタジオ」は通常非公開。お食事関連のイベントや研修などで利用されており、福武トレスでは通常の見学会の他にも「お食事会」も季節ごとに企画されているのでぜひその機会にも足を運んでみて。

おそらく、古典的な和風建築よりは現代的なFギャラリーの方が注目されるのだろうけど――福武哲彦さんが長い年月を掛けてこだわったこの迎賓館の骨格こそが「お庭」。そのお庭の再生を中心に添え、曲げなかったからこそ、この斬新な建築も生まれた…「お庭ありき」で、建築の魅力な可能性もきっと増幅する――それをこの場では再確認。

また再生には30代の建築家／造園家が中心になって取り組まれたり、見学会の案内役を地元の建築の学生さんが担ったり、という点でも「未来」への可能性も感じさせてくれます。『岡山後楽園』と共に、岡山市を代表する庭園の一つとして継がれて行って欲しいお庭…！

（2024年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）