卜蔵庭園

Bokura Garden, Okuizumo, Shimane

日本遺産や国の重要文化的景観にも選定。楠木正成を輩出した楠木氏の末裔で“松江藩の五鉄師”の邸宅の庭園。奥出雲町指定名勝。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

旧卜蔵庭園/奥出雲たたら製鉄及び棚田の文化的景観について

「旧卜蔵庭園」(きゅうぼくらていえん)は江戸時代に“たたら製鉄”と呼ばれた製鉄業で栄え、松江藩の五鉄師の一つだった“卜蔵家”に江戸時代初期に作庭された日本庭園。奥出雲町指定名勝であるほか、日本遺産『出雲國たたら風土記~鉄づくり千年が生んだ物語~』の構成文化財。またその一帯は国の重要文化的景観「奥出雲たたら製鉄及び棚田の文化的景観」にも選定されています。

国指定名勝『櫻井氏庭園』(可部屋集成館)、国登録名勝『絲原氏庭園』(絲原記念館)など文化財庭園が点在する奥出雲地域。2020年秋にその両庭園を巡った時も立ち寄りたかったけど行程の都合で訪れることがかなわなかったのが町指定文化財のこの庭園…2022年5月に初めて訪れました!

JR木次線の出雲横田駅から約7km…公共交通機関では辿り着くのが難しい“追谷集落”にこの庭園はあります。

南北朝時代に南朝方の中心的な武将として将軍・足利尊氏と対峙した楠木正成、その弟の楠木正季/楠木正氏の末裔とされる“ト蔵家”。中世に奥出雲のこの地で豪族として権力者となり、江戸時代には砂鉄がよく採れた地のりを活かして鉄師として松江藩から優遇されるまでに。
今日も集落へと入る橋の名が“卜蔵橋”という所から卜蔵家のこの辺り一帯の存在の大きさがわかる。

その卜蔵橋を渡ってすぐの場所に旧卜蔵庭園はあります。かつてはト蔵家の邸内から、現在はお食事処『椿庵』の中から山菜料理やお蕎麦を味わいながら眺める約260坪の池泉鑑賞式庭園。
300年以上前の元禄年間、松江藩との繋がりから“小堀遠州の弟子”という庭師を近畿・関西地方から招き作庭したものと伝わります。

なんといっても船通山の借景が美しい!“ヤマタノオロチ”退治の舞台である船通山…池泉を正面に見ると築山上部から豪快に落ちる滝があり、庭園の雄大さを引き立てている。庭園の上段へと進むと滝の注水部も見ることができるけど、豊富な水は砂鉄の採取にも欠かせない資源で、それを再利用した池泉庭園でもある。

池泉にかかる太鼓橋と池の手前の手水鉢は後から加わったものだそう。松平不昧公以降の“出雲流庭園”とは年代も異なるし池泉庭園は雰囲気も異なるけど、建物手前の白砂の飛び石のエリアは回遊性を備えた“出雲流庭園”っぽさがあるので手水鉢ともども改変されたものなんだろう。

昭和の有名作庭家・重森三玲も実測に訪れ、現代にはその図面を下にその孫・重森千靑さんによる修復作業も行われたとか。今回は新緑の季節に訪れたけど秋の紅葉の風景も見てみたいな〜。

庭園だけが目当てならばここで終わり…なのだけど、日本遺産&国選定重要文化的景観『奥出雲たたら製鉄及び棚田の文化的景観』《たたら製鉄 鉄穴流しで造られた棚田》はそこから徒歩10分ほど先にあります。
この棚田、元はたたら製鉄の砂鉄を採取していた場所。その跡地を遊ばせておくのはもったいない…ということで棚田が造成され、その結果新潟の『星峠の棚田』あたりと同じく山間部ならではの環境が米作りに適し、現在では《東の魚沼コシヒカリ 西の仁多米》と並び称されるブランド米になったとか。

この集落の中にも卜蔵家によるお食事処『たたらの舎-Cafe』があります。ぜひお食事も味わって。

(2022年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR木次線 出雲横田駅より約7km
JR木次線 出雲三成駅より約15km(レンタサイクルあり)

〒699-1801 島根県仁多郡奥出雲町竹崎800 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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