梅田氏庭園

Umeda-shi House Garden, Ikeda, Fukui

京都の世界遺産“苔寺”庭園作者・夢窓疎石が造園指導した?と伝わる越前の苔の名庭…平家の落人が鎌倉/室町時代に作庭の国指定文化財庭園。【通常非公開】

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梅田氏庭園について

【通常非公開/春・秋に3日程の特別公開あり】
「梅田氏庭園」(うめだしていえん)は福井県今立郡池田町にある国指定文化財の庭園。鎌倉時代にこの地(池田郷)に居を構えた豪族・梅田氏の居館に鎌倉時代〜室町時代に掛け作庭された庭園で、苔むした美しい広大な庭園が残ります。

通常非公開ですが、【春(6月上旬)/秋(11月上〜中旬?)】に各3日間程度の特別公開を実施。積雪する冬季を除き、特別公開以外でも予約での見学も可能。(…ですが、特別公開に合わせて地域のボランティアの方々によってお掃除に入られるそうなので特別公開の際が一番庭園のコンディションが良いとのこと)

その特別公開もコロナ禍を経て一時期は未実施だったので、もう見る機会が無いかも…と思っていたのですが、復活(公式HPも新たに立ち上がりました)!2025年の春の公開で初めて訪れました。秋の特別公開の際は庭園で野点が催されたり、音楽の演奏があったりとより地域のイベント的な開催となるそう。

2024年に北陸新幹線・えちぜん武生駅が開業した越前市の東方に位置する池田町。公共交通機関で行き易くはない…のですが、武生駅からの路線バスが1日数往復しており、この庭園はバス停からは徒歩2分!と近い。(更にその路線バスは越前市の国指定名勝『三田村氏庭園』『城福寺庭園』、国登録記念物(名勝)『花筐公園』の近隣も通過する。実は国文化財庭園を繋ぐようなバス…!)

梅田氏の歴史は古く、平安時代末期の源平の合戦に遡ります。平家方・平維盛と源氏方・源義仲(木曽義仲)が北陸で争った「倶利伽羅峠の戦い」「篠原の戦い」。木曽義仲の圧勝に終わったこの戦いで平家・平維盛は敗走。その過程で池田郷の豪族として土着したのが梅田氏。以来、850年近くに渡ってこの地に居を構えます(なお先述の『城福寺庭園』も“平家の落人”由縁のお寺さん)。文化財指定名に「旧」と付かない通り、現在も梅田家の所有!

迫力ある石垣と水堀、その屋敷構えからして「名家」の風格漂う……その石垣や入場門の前の階段から苔むしてるのですが、門の中へ足を一歩踏み入れると一面の苔むした空間…!山間部・積雪地帯というロケーション含め、これまで名庭園として紹介してきている新潟・柏崎の国指定文化財庭園『貞観園』と同じ匂いだ…!

京都の世界遺産庭園『天龍寺庭園』『西芳寺庭園』(苔寺)を手掛けた鎌倉時代末期〜室町時代初期を代表する作庭家/禅僧・夢窓疎石(夢窓国師)が諸国行脚の折に造園指導した…とも伝わるこの庭園。福井県のお庭では初めて夢窓疎石の名を見たけれど、美濃国に確かな足跡があるので越前に訪れていても不思議でははない…し、この苔むした庭園は京都の苔寺が好きな人であれば訪れて損はない…。(庭園全体で約20種類の苔が確認できているとか)

庭園は主に3つのエリアに分かれます。邸宅の玄関前に広がり、三尊石組のある「西庭」、大きな滝のある「南庭」、邸宅の奥に広がる池泉鑑賞式庭園「主庭」。南庭のどデカい滝は近代以降の改修だと思うけれど、ベースとなっている庭園〜敷地全体は鎌倉時代末期〜室町時代の庭園の特徴がよく保存されている…と評されます。

なお現在の邸宅建築は昭和年代のもので、庭園公開時は建物には上がれません…が、その代わりに(2025年春の公開時の)この庭園の最大の特徴は「苔の上を歩きながら鑑賞すること」
通常は『踏まれると痛む』ので、鑑賞者が踏んで歩くのは御法度!な苔。でもこの梅田氏庭園は幾つかの条件が揃って(鑑賞ポイントの家屋が現役の個人邸である/普段非公開で、継続的に人が歩く訳ではない/苔むしやすい湿度が高い環境)、苔の上を歩きながら庭園鑑賞する形になります(でもなるべく平たいソールの靴を推奨)。もちろん飛び石がある所は飛び石を歩いて。石のベンチも苔むしている…!

■西庭(4〜7枚目)
入場門入ってすぐ、邸宅の前庭。全面苔むした庭園のプロローグで、奥の方へと続く苔と青もみじの青々した姿が見通せてワクワクする。邸宅側から西側を向くと三尊石組が配されています。シンプルな造形だけど同じ福井県の国指定名勝庭園で言うと『旧玄成院庭園』を思い出す。

■南庭(8〜11枚目)
西庭から連なるように広がる南庭。手前左右に吉兆を表す鶴島・亀島を配し、奥には山の斜面を活かした滝(飛瀑)を中心とした池泉庭園があります。この2〜3メートルある滝がド迫力!鎌倉〜室町初期の庭園でこんなに大きな滝のある庭園って他にあるかな…(後年の改修かもしれないけど)。その斜面に連なる石積も「豪族の居館」といった迫力!

この南庭、家屋側へ振り返ると山の借景が。借景となっている山の名は「愛宕山」「高尾山」(高雄山)で、かつての領主が“京を懐かしんで”名付けられたのだとか。

■主庭(13〜24枚目)
邸宅の東側に広がる「池水鑑賞式林泉庭園」が主庭。心の字を描く心字池を中心に、背後の斜面に更に(『水前寺成趣園』の富士山のような)築山をもうけた庭園。二つの緩やかな滝から水を落としています。
解説に書かれていて「確かに」と思ったのは、この庭園には灯籠などの石の造形物が一切ない。高木とともにそれの作風が室町時代以前の歴史の積み重ねを感じさせます。(福井県で言うと『一乗谷朝倉氏庭園』と近い作風)

その築山の方へと回らせていただくと、山の麓から二つの水路が引かれ遣水のような細い清流を経て池へと落ちている。家屋からの鑑賞式庭園だけどちゃんと裏の水路にも造形性があるし、苔むした景石の一つ一つが美しい…。(尚、南庭の滝と主庭へそそぐ水は水源は同じで、敷地奥の川から引かれているのだそう)

冒頭で、梅田氏庭園へと至るバスが国文化財庭園を繋ぐようなバスだ…と書いたけれど。越前市(周辺)は本当に節々に「歴史と文化」を感じさせる街。2024年の大河ドラマの主役・紫式部ゆかりの地である点、浄土真宗・蓮如上人ゆかりの寺院、越前和紙など…(あと越前和紙の里〜池田はヒルクライムに合いそうな道だな…と思っていたら、数名自転車で走ってる方がいらっしゃった!)。歴史や日本文化が好きな人には是非訪れて欲しい!

(2025年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

ハピラインふくい線 武生駅/福井鉄道 たけふ新駅より路線バス「谷口門前」バス停下車 徒歩2分

〒910-2503 福井県今立郡池田町 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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