遠山記念館(旧遠山邸庭園)

Toyama Memorial Museum Garden, Kawajima, Saitama

日興證券創業者・遠山元一の旧邸。国重要文化財の近代和風建築と、近代の東京を代表する造園家・龍居松之助(龍居庭園研究所)作庭の庭園。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

遠山記念館(旧遠山家住宅・遠山邸)庭園について

「遠山記念館」(とおやまきねんかん)は日興證券(現・SMBC日興証券)の創業者・遠山元一の生家を含むお屋敷と、氏のコレクションを収蔵・展示する美術館で構成される文化施設。その邸宅は「旧遠山家住宅」として国指定重要文化財。また庭園の作庭は近代の東京を代表する造園家・龍居松之助龍居庭園研究所)。

2021年10月の関東遠征シリーズもようやく最終盤…。この遠山記念館は関東在住だった頃から「きっと好きですよ」と言われて、「次関東行く時は必ず行かなきゃ!」と思っていた場所。文句無しで素晴らしかった…!

…関東住んでた頃から頭にはあったのに訪れてなかった理由、それは微妙なアクセスの悪さ。公共交通機関の場合、川越駅・桶川駅からバスに乗り最寄りバス停からは徒歩15分ほど。でもそのバスの本数が(土日は)意外と少なくって…。今回もメジャーではない(オススメはしない)「桶川駅からレンタサイクル」という手段で訪れました。

ここを知るまで埼玉に“川島町”なんて自治体があることも正直知らなかった。のどかな田園地帯に急に現れる濠をもつ豪邸…それが遠山記念館。新潟あたりによくあるこの感じ、そう遠山記念館もルーツは“豪農屋敷”。

記念館の創設者・遠山元一は冒頭の通り大手証券会社の創業者になった人物ですが、生まれは川島町のこの豪農の家でした。しかしながら元一の少年期に遠山家は没落。この生家も手放され、元一は15歳で上京し丁稚奉公として働き始めました。
事業経験を積んで1918年(大正7年)、28歳の時に独立し“川島屋商店”を設立。これが現在のSMBC日興証券のルーツの一つ。

独立して興した事業で大成功を収めた遠山元一が生家を買い戻し、更に母親の安住の住まいとして2年7ヶ月をかけて1936年(昭和11年)までに新築/増築したのが「旧遠山家住宅」。2018年には長屋門、東棟、中棟、西棟、寄付待合、土蔵、庭門及び内塀、裏門及び外塀、茶室の9棟&土地が国重要文化財になりました。

元一の没後はその遺志に基づき、公益財団法人として邸宅・庭園や美術品の公開、芸術・学術研究などへの助成金など文化・芸術を振興/支援される活動も行われています。所蔵する美術品の中には“佐竹本三十六歌仙絵巻”の一部など、6点の国指定重要文化財も。

で、とにかくその邸宅がすごい…。表玄関のある“東棟”はいかにも豪農屋敷!って感じの茅葺屋根。中棟へと進むと目の前に庭園を見渡せる書院造りの大広間に。大広間+次の間を足し合わせると28畳もの広さ!ぐるっとめぐらされたガラス戸が近代和風建築…といった雰囲気を醸す。

そして一部に茶室を備えた西棟は渡り廊下や客間も数寄屋風のデザイン。茶室の戸が下半分だけガラス戸になっているのは、『山口蓬春記念館』と同じく京都の『大徳寺 孤篷庵』オマージュなのかな。近代にはそれが流行っていたのかな、もしかして。その他、中棟の2階には“和洋折衷”の洋の部分、洋風の応接室がある(通常非公開)。

公開されている関東の近代和風建築の中ではこれは確かに最高クラスの規模では…?総監督をつとめたのは元一の弟・遠山芳雄、設計は室岡惣七、大工棟梁は中村清次郎で、のべ3万5千人が工事に関与。使われている材も全国から集められた銘木が用いられています。また美術館の方の設計は長野・穂高の『碌山美術館』を手掛けている今井兼次

そんな邸宅の前に広がる庭園は、近代の東京を代表する造園家・龍居松之助(龍居庭園研究所)の作庭。公式サイトやパンフレットにもまだ記載は無いのですが、鑑賞の際にいただいた『遠山記念館だより』(2021年3月発行)にその旨記載がありました。日本庭園協会の名誉会長でもある龍居竹之介さんの父親、龍居松之助作庭の庭園は取り上げるのははじめてかも…。

大広間の前には芝生の広場を確保し、その先に枯流れによる回遊式庭園のエリアが。数寄屋風の西棟〜奥にある草庵風の茶室(本席)の周囲の露地庭は京都の鞍馬石のような赤っぽい沓脱石があったり、神戸・芦屋・西宮あたりで見られる白っぽい石を敷き詰めた基礎部分が見られたり。当時の流行りが反映された庭園。あと「これ、元はなんだろ?」みたいな手水鉢もあったりして…庭石や石造物も銘石揃い!だと思う!

つい近年、龍居庭園研究所による図面が見つかるまでは龍見清吉という経歴不詳の庭師が作庭した…と伝わっていたとか。龍居松之助の作庭庭園…と伝わっている庭園もさほど多くない(あると思うんだけど分からない)中では、この庭園もいずれ文化財になる貴重な庭園なのだと思う。
あと前庭には彫刻家・流政之さんの作品があるのも個人的には嬉しい所!アクセスには再び頭悩ませつつ、また訪れたい。

(2021年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR高崎線 桶川駅・JR川越線 川越駅より路線バス「牛ケ谷戸」バス停下車 徒歩15分
JR桶川駅より7.5km(*駅前の商店にレンタサイクルあり。日曜休。路線バスの本数が意外と少ないのでレンタサイクル使った…)

〒350-0128 埼玉県比企郡川島町白井沼675 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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