旧徳島城表御殿庭園

旧徳島城表御殿庭園（千秋閣庭園）について

「旧徳島城表御殿庭園」（きゅうとくしまじょうおもてごてんていえん）はかつて阿波徳島藩を治めた大名・蜂須賀氏が桃山時代に築城した『徳島城』の表御殿に作庭された庭園。桃山時代〜江戸時代初期の武将・茶人であり茶道「上田宗箇流」の祖である上田宗箇の作庭とされ、国指定文化財（国指定名勝）となっています。別名『千秋閣庭園』（せんしゅうかくていえん）。

JR徳島駅から線路を挟んですぐ裏手にある徳島中央公園（徳島城跡）の中、『徳島城博物館』の隣に位置するこの庭園。なんと入場料はたった50円…！しかしとても50円の価値とは思えない、素晴らしい名庭園がそこには残っています。

まずは徳島城について。日本100名城選定。桃山時代の1586年（天正14年）、豊臣秀吉から阿波国を与えられた蜂須賀家政により築城。それ以来江戸時代を通じて明治維新の廃藩置県まで蜂須賀氏の居城でした。
明治時代には廃城後、“日本の公園の父”本多静六と本郷高徳の設計によって都市公園として開園。公園内にはこの庭園以外にも西洋風のバラ園もあり、庭園と隣接する『徳島城博物館』では徳島藩や蜂須賀家に関する展示を観ることができます。

お城の南東部、現在『徳島城博物館』のある場所にかつて藩主・蜂須賀家が生活した表御殿が存在していました。その御殿の庭園として作庭されたのが表御殿庭園。現代でも人気の“阿波の青石”（緑泥片石）をふんだんに使った、築山式泉水庭園と枯山水庭園が一体となった“桃山時代の庭園様式”が残る日本庭園。なお、枯山水が「書院の庭」、築山泉水庭が「居間の庭」として築庭されたもの。
また心字池を描いた池泉は江戸時代には堀から水を引き入れており、その堀が助任川〜吉野川から紀伊水道まで通じていたため「潮入り庭園」とも呼ばれていたとのこと。

広島『縮景園』、和歌山『和歌山城 西之丸庭園』、『粉河寺庭園』、そして『名古屋城二之丸庭園』と複数の大規模な大名庭園、かつ国指定文化財庭園を手がけている名作庭家でもあった上田宗箇。中でもこの庭園は大名庭園と「日本庭園の魅力は自然石」と言った点をいいとこ取りしたような、まさに名作――。
これだけ名作を連発しておきながら小堀遠州と比べて名前が挙がりづらいのは、京都に作品を残していないからか…（もっとも阿波の青石を好んだ昭和の名作庭家・重森三玲は上田宗箇から影響を多く受けていて広島の上田宗箇の旧跡を巡ったという話も。）

池泉回遊式庭園と枯山水庭園両方ある、みたいな庭園は他にもあるし、1,520坪という面積は東京都内の大名庭園と比べると広くはない。けれど、徳島城表御殿庭園はその2つの庭園が程良くコンパクトにまとまっていて、それであって阿波の青石を主体とした豪快な石組で世界観が統一されている――程良くコンパクトだからこそ、10mもある自然石での石橋がよりインパクトを与えてくる。回遊しててワクワクする！池に架かる自然石の橋に、手すり等がない“生”な感じもまた良い。

同じ徳島市内の『阿波国分寺庭園』とこの庭園だけでも、正直「いちど徳島の庭園に行くべき」と言いたい、そんな名庭園です。

そんな名庭園が50円で見られる…庭園の見学料の妥当性って難しい所で、多くの寺院庭園が数百円なのでそれが一つの基準だけど、「芸術作品として考えた場合、そもそもそれは安すぎないか」という考え方もあって。たとえば民間である『足立美術館』が2,000円代ということを考えれば、旧徳島城表御殿庭園は1,000円以上しても「観るべき！」って言える庭園。
ただ実際その値段だと地元の人の足は遠のくと思うので…芸術性と「市民に親しまれる」ことのバランスは色んな考え方があると思う。せっかくのこの入園料なので、徳島県民が日本中に誇れる庭園であり続けてほしいです。

ちなみに『千秋閣庭園』の略称について。「千秋閣」は表御殿のあった場所に、明治時代の皇太子行啓（＝のちの大正天皇）に際し造られた宿泊施設の名前。庭園内にはそれにまつわる遺構はありませんが、現在徳島市内の別の場所で「ホテル千秋閣」が営業されています。ホテル選びの一つに。

（2012年1月、2016年10月、2019年1月、2023年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）