徳明園(洞窟観音 山徳記念館)

Tokumeien Garden, Takasaki, Gunma

夏の避暑にオススメの“洞窟観音”も。高崎のシンボル“白衣大観音”から程近くにある北関東屈指の名庭園。呉服商・山田徳蔵と近代新潟の庭師・後藤石水、建築家・金子清吉の作庭。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

洞窟観音・徳明園・山徳記念館について

「徳明園」(とくめいえん)は群馬県高崎市にある日本庭園。高崎のシンボル“白衣大観音”のそびえる観音山の中腹に、近代の実業家・山田徳蔵が大正時代~昭和時代に掛けて作庭した約6,000坪の庭園が広がります。高崎の紅葉の名所として知られ、ライトアップも開催。年間を通じ20度以下に保たれた洞窟に約40体の観音像を安置した『洞窟観音』も。

文化財などには指定/登録されていないものの“北関東屈指の名庭園”とも評されて、夏に訪れても秋に訪れても美しい庭園。2025年に久々に訪れたので改めて紹介。

その歴史について。新潟県柏崎市出身の行商で、高崎に開いた「山徳呉服店」から呉服商〜貿易商へと商売を広げ成功し財を成した実業家・山田徳蔵。高崎商工会議所の設立や市内の大きな橋「聖石橋」の架橋など街づくりにも貢献し、施設の一角にある「山田徳蔵翁之碑」の揮毫は元首相・中曽根康弘という所からも高崎での政財界での影響が感じられます。

氏の「財を私せず」の精神から、その全私財を投じて大正時代~昭和時代に掛けて造営した観光施設が『洞窟観音』。庭園『徳明園』はこの洞窟観音を中心とした『洞窟観音山徳公園』の一部で、メイン(最初に造営されたもの)は洞窟観音。
高崎に「天下の名勝」を作るべく、1919年(大正8年)〜亡くなられる1964年まで観音山のトンネルを採掘(※戦時中には防空壕としても想定されたとか)。最終的に約400メートルに及んだ洞窟の中に、新潟の名工と呼ばれた高橋楽山が作の観音像が39体安置されています。そしてその洞窟内もところどころ枯山水庭園の様な意匠だったり、長野・浅間山から運ばれた溶岩石が雰囲気を演出していたり、生の岩肌の雰囲気も◎。

そしてもう一つこの洞窟のオススメポイントは「気温が年間通じておよそ18度に保たれている」点。日本国内の気温ランキングでもたびたび上位に登場する高崎で自然のクーラーが体感できる避暑スポット…!「あまり仏像には興味ないな…」という方にも夏ぜひ訪れて欲しい…。

そして庭園も時期的には並行して作庭された近代の日本庭園。山の中腹という立地に洞窟採掘による残土を積み上げて造成された、非常に高低差のある池泉回遊式庭園。
入場門から坂を下って目線の先、庭園の中心部にある和風建築・洋館が徳蔵が晩年を過ごした邸宅。現在は『山徳記念館』として、山田徳蔵の人物や事業、ゆかりの人物(先述の中曽根元首相や「徳明園」の名付け親・北澤楽天)に関する展示を見ることができます。

高低差ある庭園の中で中段に位置するから見下ろす池泉「浦島の池」を中心とした池泉回遊式庭園。徳蔵の指揮の下で作庭(造園・設計)に携わったのは近代の建築家・金子清吉と新潟の庭師・後藤石水(二代目)。
後藤石水は新潟市内の石油王の邸宅『新津記念館』など資産家の庭園を手掛けた実績があるほか、『明治神宮』の造園にも関わった人物。石水の作庭記録には『山徳園』の名で残ります。また金子清吉は近代日本を代表する建築家のひとり・伊東忠太の弟子として東京の『荻外荘』や静岡県の『可睡斎 瑞龍閣』等を手掛けています。(てことは、洋館にも氏が関わっている…?)

…と作者の名前を書いたものの、その様な情報がなくとも「これはすごい!」と思えるのが徳明園。もっとも寺院庭園でもなければ群馬県で唯一の国指定文化財の庭園『楽山園』の様な大名庭園でもなく。これだけ高低差があり、更に家屋からこの傾斜で見下ろすタイプの池泉庭園はあまり多くないので…多くの人は「あまり出会ったことにないタイプの日本庭園」だと感じるのではないでしょうか。でもそれ位「自然の渓谷の中に居るような」庭園。

庭園を歩いていても、群馬の銘石“三波石”を中心に本当に色んな種類の庭石が各地から運ばれ作庭されていることを実感する。中でも目を引くのは、和室から見て右手側の下部に位置する「観音滝」と「滝見観音」。ここにも人口の洞窟が設けられ、観音像が点在。
その洞窟を抜けた先にあるのが、珍重された「佐渡の赤玉石」をふんだんに用いた石組「火炎地獄」。この庭園、後藤石水が手掛けた新潟の庭園もこの庭園とはあまり似ていないので、徳蔵翁の趣味趣向が強く反映されている…と思うのですが、これだけ赤石を関東まで持って来られたのは新潟市内が拠点の後藤石水のネットワークが活かされているのだろう、と感じます。

この池泉庭園の奥にあるのが「苔庭」。その名の通り、苔と白砂を中心とした枯山水庭園。これがまたモミジと石造物が相まって美しい。この空間は比較的「京都のような空間」、だけど京都にも負けていない!

また苔庭から中段部へ戻る途中には、(当初の構想をもとに)2018年に作庭された「石庭」も。これもまた巨石がふんだんに使われ、白砂のお手入れも行き届いていて美しい…。近年はミストも人気を集めている「北関東屈指の名庭園」、群馬県民・高崎市民に向こう100年・200年と愛されて欲しいお庭…!

(2017年11月、2025年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR上越・北陸新幹線 高崎駅より3km強(※駅前にレンタサイクルあり)
高崎駅より路線バス「洞窟観音入口」バス停下車 徒歩5分

〒370-0864 群馬県高崎市石原町2857 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
PICK UP - TOUR / EVENT
MEDIA / COLUMN
最新の庭園情報は約10万人がフォローする
【おにわさん】のSNSから。