世界的芸術家・横尾忠則がアートワークを手掛けた美術館の、横尾自身が“生と死”をコンセプトに表現した日本庭園。
横尾忠則:豊島横尾館“庭のインスタレーション”について
「豊島横尾館」(てしまよこおかん)は日本が世界にほこるアーティストのひとり・横尾忠則の作品が展示された美術館。瀬戸内海に浮かぶアートの島・豊島の玄関口となる家浦港から程近くの集落にある古民家を建築家・永山祐子により改修/増築され、2013年の『瀬戸内国際芸術祭』の夏会期より開館。横尾忠則さん自身がコンセプト、造園に関与した庭園(庭のインスタレーション)も作品の一つとして鑑賞することができます。
初めて訪れたのは2016年の瀬戸芸。その時は全面的に撮影禁止だったけれど、2021年から一部作品(庭のインスタレーションとトイレのインスタレーション)の撮影が可能に——であるならば紹介したい!てことで瀬戸内国際芸術祭2022の春会期で再訪。
2010年の瀬戸内国際芸術祭でも豊島の古民家で作品展示をされた横尾忠則。それをきっかけに“生と死について考える場所”という総合プロデューサー・福武總一郎の構想を下に、横尾忠則がアートワーク・コンセプトを、永山祐子が古民家3棟のリノベーションと円塔の新築を手掛け、この“古民家美術館”が誕生しました。
屋内には“生と死”を想起させる場にふさわしい横尾作品が11点展示——されていますが当サイトでは“美術館”ではなくあくまで庭園(庭のインスタレーション)にのみフォーカスします。
赤い庭石による石組が特徴的な池泉鑑賞式庭園で、池底のタイルによるアートワークと相まってとても色彩鮮やか。このタイル絵は豊島島民を中心とした約100名の参加者とともに制作されたもの。二手から流れ出す水は、主屋の下を通り裏へと続いてゆく。主屋からは透明のガラスで上からその流れの様子を見ることもできます。
主屋も一見古民家なんだけど、玄関・座敷の中央が真っ二つに割られている風貌も“こちらと向こう”という境界線を意識させられる。
横尾はこの美術館でガイドブックで造園のコンセプトについて下記のように語ります。箇条書き。
● アーノルド・ベックリンの代表作「死の島」を念頭に置き、「死の島」とエジプトの「死者の書」を一体化させた
● 中央を流れる川は三途の川であると同時にナイル河でもあり、胎児を包む羊水でもある
● 新築された円塔は男性器であり、塔内で展示されている滝の作品は精液である。そして庭園は女性原理と見立て、この庭園内で新たな生命が誕生する(*池の中で泳ぐ鯉は2013年の当初から産卵により増加している)
● 赤い庭石は“死”ではなく“生命エネルギー”である
中の島にある雪見灯篭も実際見ると金色に塗りたくられている——のだけど、この古民家の元の写真を見るとこの灯籠は元この場にあった灯籠が再利用され、新たな命が吹き込まれていると分かってハッとさせられる。
そしてこのカラフルな庭園も、エントランスの赤いガラスを通して見ると色彩が失われる。生命、死を直感的にイメージする色だけれど、ただそれで選ばれてるのではなく、建築・空間自体が作品である——という部分の一つ。
横尾忠則ファン、現代アートファン目線ではなく、庭園ファンが見た時にこの庭園を“好き”と思うか“好きじゃない”と思うかは人それぞれだと思うけど——自分は“これまでに無い作品”を作るアーティストが好きなので勿論大好き。
古くは雪舟、近代には橋下関雪や久我小年など、画家が庭園も手掛けた例は多少なりともある——けど現代で言えばそんなに無かったのかな(流政之は彫刻家だとすると)、そもそも“アーティストの表現”に“日本庭園”が選ばれなよりは、選ばれた方が絶対に良い。
塗料で塗られた庭石というのも、セオリーではないだろうけど。でも仮に500年前、200年前に“雨水でも落ちない塗料”があったとしたらどうだっただろう。あとなんとなく“彫刻庭園”みたいなものもモノクロームな、石の色をそのまま活かした作品が多い一方で、日本国内でも草間彌生さんやニキ・ド・サンファルのカラフルな屋外作品は現代では大人気だ。
今は“セオリーから逸脱している”庭園かもしれないけれど、歴史に名を刻むであろう横尾忠則さんが残した庭園として、100年後・200年後はまた評価が異なっているかも。この作品がまた国内外の誰かの創作意欲に繋がることを祈って。
(2016年3月、2022年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)