旧田中家住宅

旧田中家住宅について

「旧田中家住宅」（きゅうたなかけじゅうたく）はSR埼玉高速鉄道・川口元郷駅の程近くにある国指定重要文化財の近代建築。大正時代の三階建レンガ造りの洋館と昭和初期の近代和風建築、そして茶室のある回遊式日本庭園が鑑賞できます。
2022年秋に約3年ぶりに訪れたのでその際の写真を更新して紹介。

Jリーグ・浦和レッズのホームスタジアムであり、サッカー日本代表の試合も数多く行われる“埼玉スタジアム”へ通ずる埼玉高速鉄道。SR沿線で観光する方というのは決して多くないかもしれませんが、実はSRで埼玉県へ入って最初の駅・川口元郷駅のすぐ近くには2018年に国重要文化財になったばかりの素敵な洋館＆庭園があります！

川口元郷駅から徒歩7分。時折古い街道の面影を感じられるカーブのある日光御成街道に突如現れるレトロな洋館が旧田中家住宅。
田中家は江戸時代から続く当地の旧家。明治時代になると二代目・田中徳兵衛が材木商／味噌醸造を営む商人として成功。その後、四代目徳兵衛は商売の傍で貴族院議員に、五代目徳兵衛は九代目の川口市長をつとめるなど政財界で活躍されました。

現在見られる「旧田中家住宅」はそんな田中家の住居兼迎賓施設として建てられたもの。まずは洋館から。1923年（大正12年）に完成したこの洋館、実はこの年は関東大震災が起こった年。その時代を乗り越えた意味でも大変貴重な洋館（材木商だったゆえ建築資材には最高級の木材が使われていたとか）。

設計監督を務めた櫻井忍夫は明治～大正期に活躍した建築家。ジョサイア・コンドルの弟子、佐立七次郎や京都・東本願寺の本堂を手掛けた九代目・伊藤平左衛門晋平の元で学び、携わった建築には東京座、東京株式取引所、三菱時代の小岩井農場本部事務所、入澤達吉の赤倉別荘など。

1階から3階まで和洋折衷の素敵な部屋やインテリアを満喫できるのですが、ユニークなのはこんな立派な洋館にもかかわらず、玄関には和風の“商家の帳場”がある点。これは中山道に並んでいた商家のスタイルに則ったものなんだとか。

洋館の先には数寄屋風書院造りの和館も。実は和館の方が時代は新しく、1934年（昭和9年）の増築。10畳の仏間＋12畳の次の間＋14畳の座敷という、こちらも豪華でオシャレな意匠も色々と残る素敵な建築で、お座敷から日本庭園を眺めることができます。なお田中家で最も古いのは「文庫蔵」で、洋館よりも古い明治時代の建築と推測されています。

そんな和館の前に広がる庭園。縁側から手前の飛び石のエリアは建築との調査や石の立派さから見ても昭和初期に建築とセットで作庭されたものかもしれないけど、現在見られる庭園全体が作庭されたのは比較的新しい時代の1973年（昭和48年）。元は田中家の家業だった「味噌蔵」が建っていた場所に、枯山水〜池泉庭園と茶室・露地が整えられました。

その茶室もユニークで、昭和の“近代数寄屋建築”風の一つの大きな建物の中に、茶室と露地庭がある。雪国ではこのような屋内の露地庭を見掛けることって時折あるのだけれど（加賀藩主・前田家の『成巽閣庭園』など）、関東の庭園では珍しい。なお施工は京都の職人によって手がけられているそう。

東京を出て最初の駅からすぐの洋館…ながら、まだ知名度は決して高くない。東京の人気の洋館では「モデル撮影目的はやめて」という声明を出されたりしているけれど、この旧田中家住宅は「撮影目的の方も、ぜひ！」とのこと（2022年10月現在）。和室・茶室の有料での貸室もぜひ利用してみて。
また川口には他にも古建築・庭園が残り（“かわぐちレトロさんぽ”という冊子も）、SRのその先、戸塚安行は植木の町として知られ、沿線には造園家・中島健が手掛けた『川口市立グリーンセンター』も。埼スタアウェーの隠れた観光スポットとして！

（2019年9月、2022年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）