戦後の県庁として初の国登録文化財となった安田臣のモダニズム建築…その枯山水庭園は京都の有名作庭家・重森三玲の子・重森完途の作。
島根県庁本庁舎庭園について
「島根県庁」(しまねけんちょう)の本庁舎は1959年(昭和34年)に建築家・安田臣によって手掛けられたモダニズム建築。その庭園は昭和の京都の代表的作庭家のひとり・重森三玲の長男、重森完途が設計/作庭を担当。
同年に安田臣が手掛けた島根県庁舎議事堂&前年に菊竹清訓が手掛けた県庁第3分庁舎とともに2019年に戦後の都道府県庁舎としては初めて国登録有形文化財に答申されました。
初めて松江市に訪れた10年前、国宝・松江城には登ったし、既に庭園は好きになり始めていたので『足立美術館』にも訪れたけど、松江城の麓に現代日本庭園があるとは知らなかった。
松江城三の丸跡に建つ島根県庁本庁舎。1970年(昭和45年)には松江城も含めた歴史的景観との調和をテーマとして整備されたことが評価され、日本建築学会賞も受賞しています。
庭園は大きく分けて3箇所あります。
【1】 ピロティになっている1階部分にある中庭(4〜7枚目)。デザインコンセプトは『八雲立つ出雲』。父・重森三玲の作品でもよく見られる、コンクリートやモルタル(ここではインターロッキングでした。)で抽象的な曲線を描いた中に白砂と立石の組合せ。
で、赤い飛び石が建物側から巡らされている姿…最初は“重森デザインの特徴の一つ”として見ていたけど、この後に松平不昧公ゆかりの茶室・露地庭『菅田庵』や『普門院 観月庵』を見て印象が変わった。これはそれらの露地庭のオマージュだったのか、と。
【2】 県庁一階にある「県民室」から正面に見る中庭、これが主庭(1・9〜14枚目)。島根県の海・海岸線を抽象化して表現したという枯山水庭園。とすると…立石が表現しているのは穴道湖越しに眺められる出雲の山並みなのか、はたまたスサノオを中心とした出雲の神々なのか。
細長い丸石を敷き詰めたデザインは父・三玲の庭園ではあまり見たことがない、完途独自のデザイン性が垣間見えます。
【3】 最後に建物東側の公園のような芝生広場も実はそうで、各所に“らしさ”を感じられる赤いモルタルや白砂と立石の組合せが配されています。
上空写真で見ると(特に過去の航空写真で見ると)洋風の整った庭園を念頭に置きつつも園路がアシンメトリーになっているという…なんとなく“親とは違うデザイン性を見せよう”という重森完途さんの意気込みを感じる。
気になることが2つ。1959年というとまだ重森三玲も御存命であり(かつまだキャリアの全盛期を迎える前)、重森完途は1955年に自らの「重森完途庭園設計研究所」を立ち上げたばかりで目立つ実績はない時期。そこでなぜ完途氏の方に白羽の矢が立ったのか。(安田臣と重森完途は早稲田大学出身という共通項はあるけど、学部が建築系と文系で全く違う)
そしてロビーに飾られていた施工前の1957年の模型を見る限り、元々想定されていたのは割とオーソドックスな池泉庭園だったように見受けられる。すぐそばにお城の堀があること・松江自体が“水の都”であることからもそれ自体はすごく自然だと思うんだけど——
その設計意図の中で最終的に重森さんが起用されたことはとても違和感があるし、一方でそれ自体に『他の県庁建築との差別化』という尖った設計思想が見え隠れする。そんなモダニズム建築と一緒に楽しみたい庭園。
なお、同じく山陰のモダニズム建築+重森完途さんの庭園として、『鳥取県庁庭園』がこの島根県町の3年後に竣工しています。あわせてチェック!
(2020年11月、2022年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR山陰本線 松江駅より徒歩25分(約2km/レンタサイクルあり)
一畑電車北松江線 松江しんじ湖温泉駅より徒歩13分
松江駅より路線バス「国宝松江城 県庁前」バス停下車 徒歩3分
〒690-8501 島根県松江市殿町1 MAP