栖雲寺庭園

Seiun-ji Temple Garden, Koshu, Yamanashi

南北朝時代の禅僧・業海本浄禅師が自然の石組を活かして作庭した山の上の絶景の石庭。山梨県指定名勝。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

天目山栖雲寺について

「天目山 栖雲寺」(てんもくさん せいうんじ)は南北朝時代の1348年に開かれた寺院。天目山の戦いに敗れた戦国武将・武田勝頼が最後に目指した場所であり、山梨県指定名勝となっている石庭があります。
リーフレットのキャッチコピーは“これがほんとの禅寺”。修験の場――という厳かな雰囲気が身体で感じられる場所。

2019年9月に初めて拝観。これまで行った中で最も標高の高い寺社・庭園で――最寄の甲斐大和駅から約6㎞という距離自体はそんな「めちゃくちゃ遠い」距離ではないのですが、その6kmで標高400mも登る山の上!公共交通機関+レンタサイクルで動いている自分にはなかなか厳しいロケーションだなあと思っていたのですがw、今回は山梨の友人が車で連れて行ってくれました。
一方でそのロケーションがトレッキング客に人気なのか(途中に渓谷や温泉なども)、道中は結構多くの方が歩かれていて、路線バスも一日数本あり。公共交通機関で行けない場所ではない。

棲雲寺を開いたのは業海本浄(ごっかいほんじょう)。Gokkai。GKHJ。元時代の中国に渡り、当地の著名な臨済宗の禅僧・中峰明本(普応国師)に学びました。
普応国師が拠点としていたのが杭州の天目山。帰国後した業海は国内各地を巡り歩いた末、甲斐国のこの地で杭州・西天目山で修行の場とした禅庭“響水洞”を思い起こさせる岩壁を見つけました。そこに棲雲寺を創建、自然石を活かしてこの庭園を作庭しこの地を修行の場としました。

でもここは普段紹介する“庭”“庭園”とは違った性質のもの。鑑賞する庭園ではなく、体験する禅庭。自然の巨石が山中に並んで、その中には須弥山や三尊石に見立てられた石組がある石庭――けれど南北朝時代にこの山中で禅僧だけの力でこんな巨石群を動かせるとは思い難い。なので元々このような形で崩れていた姿を庭園に見立てた――ということなのだと思う。

磐座、岩座的な、自然の石群そのものに神聖な意味合いを感じる場でもあり――実際にかつて修行僧はこの岩の上で座禅を組み修行をされていたそう。庭園上段にある“坐禅石”から業海が弟子の様子をチェックしていたそう。
ちなみに、現代においても事前予約で『石庭坐禅』体験することができます。それはいつか参加してみたい…!

日本庭園に興味を持ったばかりのビギナーを連れて行って理解を得るのは難しいかもしれない(一緒に行った友人は「スゴイね」とは言ってくれたけど、どちらかと言うと山の上からの絶景の方が印象的だった様子)。
一方で、例えば“アートとしての”庭園、といったジャンルが好みの人ならば――きっと好きなはず。想像力が働く人なら“余白”はあればあるだけ良い。余白からどう読み取るか。この石庭にはそんな余白が沢山残されている。

順路があるので更にこの岩を登ってゆくと、武田家が必勝祈願をしたという摩利支天堂や、岩に菩薩様が刻まれた「地蔵菩薩磨崖仏」「文殊菩薩磨崖仏」もあります。これらも山梨県指定文化財。
少し歴史の話に戻ると、戦国時代には武田家の菩提寺に。武田勝頼が織田信長に滅ぼされるまでは武田家の菩提寺として栄え、信長により焼かれた後も徳川家康の庇護により再建されました。栖雲寺庫裏が山梨県指定文化財、「木造普応国師坐像」は。その他、武田信玄が初陣で勝利した際に奉納した陣中鏡、信玄公軍配なども所蔵されています。(例年秋に宝物特別公開が開催されている様子)

最後にもう少し業海禅師について。同時代に甲斐国・鎌倉・京都で活躍した夢窓疎石とは距離をおいていたそう。普応国師も皇帝や大寺と距離を置いて修行を続けた――というストイックな禅僧だったようで、その強い影響があったのだろうか。
ただ、普応国師に師事した他の国内の僧をWikipediaで見ると――無隠元晦は南禅寺の住持に、古先印元は夢窓疎石に請われて甲斐国・恵林寺に入り、その後も天龍寺や等持院など疎石が関連する寺院を渡り歩いている。普応国師に参じた者同士、横の繋がりはあったのかなぁ。

現在は臨済宗建長寺派の寺院となっており、ご住職のブログを見ていると頻繁に建長寺を行き来されている。ということはこれまでお話しした建長寺派の寺院のご住職とも横の繋がりがあったりするのかもなぁ。人里離れた絶景の寺院からでも、そのような人間模様を想像してみたり。

(2019年9月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR中央本線 甲斐大和駅より路線バス「天目」バス停下車すぐ ⇒バスの時刻表はこちらから
甲斐大和駅より約6km(超絶な上り坂。逆にトレッキングで歩かれている方が非常に多かった)

〒409-1201 山梨県甲州市大和町木賊122 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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