
戦国大名・大友氏が発祥の地に建立した名刹に、昭和から令和まで庭園の作庭が続く“花の寺”。群馬の庭園デザイナー「真澄」阿部澄夫作庭。群馬県指定重要文化財も。
青龍山 吉祥寺庭園について
「青龍山 吉祥寺」(きちじょうじ)は群馬県の北部に位置する川場村で南北朝時代から続く臨済宗建長寺派の寺院。江戸時代に建立された本堂・山門・釈迦堂といった伽藍(建築)を有するほか、群馬県指定重要文化財の仏像を所蔵。近年では100種類以上の草花・花木の植栽された“花の寺”として人気を集め(『吉祥寺百花園』)、枯山水庭園「臥龍庭」、池泉鑑賞式庭園「浄土庭」など複数の庭園が鑑賞できます。
各種新幹線の停車する群馬県のターミナル駅・JR高崎駅から電車とバスを乗り継いで1時間30分。決してアクセスが良いとは言えない——ながらも、年間10万人の参拝客が訪れるという吉祥寺。2025年に初めて訪れました——そしてそれだけの来訪者がいることにも納得の、素晴らしいお寺/お庭だった…!
その歴史について。創建は南北朝時代の1336年(延元元年)または1339年(暦応2年)。後の戦国大名・大友氏の8代目・大友氏時(またはその兄で7代目当主・大友氏泰)が鎌倉の大本山『建長寺』や京都の『建仁寺』の住持を歴任した高僧・中巌円月禅師を開山に迎えて開かれました。
これは真田氏ゆかりの『沼田城』の築城よりも約200年も前のこと。大友氏=豊後国/大分というイメージがありますが、豊後国守護大名に命じられるのはこの大友氏泰/大友氏時兄弟の代で、九州〜西国に移るにあたって大友家発祥の地に吉祥寺を建立。北朝方の天皇の勅願所にもなり、建長寺派最北の寺院として“建長寺北の門”とも称されたとか。
現在見られる主要な建造物のうち、山門、本堂、釈迦堂は江戸時代の建築。
受付を済ませてまず現れるのが山門。1815年(文化12年)に建立されたこちらが吉祥寺で唯一文化財に指定されている建築(川場村指定重要文化財)。本堂「普光殿」=1675年(延宝3年)、茅葺屋根が特徴的な釈迦堂(宝泉殿)=1790年(寛政2年)と山門より古いのですが、これらは建築は非文化財。その代わり?この2棟に安置されている仏像がそれぞれ群馬県指定重要文化財となっています(木造釈迦如来坐像/木造仏種慧済禅師坐像/木造広円明鑑禅師坐像)。
また、山門の脇にあった樹齢300年超のヒメコマツ(「吉祥寺のヒメ小松」)が群馬県指定天然記念物となっていましたが、マツクイムシによる被害で枯れてしまい2022年に指定解除。しかしながら山門の先にも巨大なマツが2本そびえています。
庭園について。「境内全体が庭園のよう」な寺社仏閣はこれまでも紹介してきましたが、この寺院は境内全体に水の流れが張り巡らされ、各所に池泉がもうけられ、文字通り「一つの大きな池泉回遊式庭園」のよう。
作庭を手がけたのは地元・群馬のガーデンデザイナー、「真澄」阿部澄夫さん。1984年(昭和59年)から約40年間にかけて境内に様々なお庭が形作られました(なお、現在も新たな庭が拡張中!)。山門までのアジサイ園から始まり、春の桜から秋の紅葉まで境内には100種類超の草花が植わっており、四季ごとの花々を楽しむことができます。
■舞龍の滝(4枚目)
山門前にある池泉庭園。「参拝者に愛と感謝を込めて龍が舞う姿」を表現されたお庭。中央の大きな立石が見どころ。
■聖観音の庭(7〜8枚目)
本堂と釈迦堂の前にある池泉庭園。池の奥に聖観音さまの姿が。
■臥龍庭(10・14〜16枚目)
本堂南庭は禅寺らしい雰囲気を醸す枯山水庭園。背後の釈迦堂の茅葺屋根もアイキャッチとして雰囲気を演出。
■翔龍の滝(17〜18枚目)
先の枯山水庭園から角を曲がると、本堂西庭としてまたタイプの違うお庭が現れます。この自然の斜面に自然石の石組を組んだお庭は「龍が本堂を背に乗せて空高く飛ぶ姿」が表現されています。庭の中心部の立石はこのお庭の鑑賞者自身を表しているのだそう。
■浄土の庭・青龍の滝(11〜13、19〜20枚目)
本堂の裏に広がる広大な池泉鑑賞式庭園。その名の通り「浄土」の世界を表現したお庭で、中心部にある「青龍の滝」から、この寺院に張り巡らされている清流が流れ出しています。
多くの寺院の池泉庭園には、建物と池の間に地面・スペースがありますが、このお庭はそれがなく本堂の目前まで池があり、建物の間際で直線的に切られている。そのデザインが現代/モダンな池泉庭園といった趣き。
また、室内からもは花頭窓や猪目窓越しにこの池庭/滝を眺めることができます。ハートのような猪目窓のリフレクションが参拝者には人気!
■古月庵(21〜22枚目)
山門〜本堂のラインをお寺の中心とすると、その右手側、左手側にもそれぞれ水の流れ〜池泉庭園が存在する。本堂向かって右手側(東側)にあるのが宝物殿「古月庵」とその前庭。
■不動の滝〜円月池(23〜30枚目)
そして、本堂向かって左手側(西側)には大まかに分けて4つの池泉と流れから構成される池泉回遊式庭園が。春にはカキツバタ〜花菖蒲、そしてアジサイにより彩られる庭園で、境内の最下部の円月池にはこれまた立派な(古墳のような)築山がもうけられています。(と短い説明ですが、このエリアがとっても広い…!)
これだけの水の流れを支えるのは、利根川の源流となる「武尊山」からの雪解け水などの清流。この地ならではの豊かな自然を活かした庭園——足を伸ばす価値あり!そして今は新しいこの昭和〜平成の庭園も、地元の多くの方に親しまれながらきっと後世に受け継がれていくのでしょう——季節を変えてまた訪れたい!
(2025年7月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
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