魯山人寓居跡 いろは草庵

Rosanjin's Cottage "Iroha Soan", Kaga, Ishikawa

“美食倶楽部”“星岡茶寮”も有名な美食家/芸術家・北大路魯山人。福田大観を名乗った若手時代に逗留し作陶を学んだ旧宅の苔むした庭園。国登録有形文化財。

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魯山人寓居跡 いろは草庵(北大路魯山人寓居)庭園について

「魯山人寓居跡 いろは草庵」(ろさんじんぐうきょあと いろはそうあん)は石川県・加賀温泉郷を構成する温泉地の一つ「山代温泉」の温泉街に残る、芸術家/美食家・北大路魯山人ゆかりの和風建築。「北大路魯山人寓居」として主屋・土蔵が国登録有形文化財。

加賀温泉郷の中でも最大規模をほこる温泉街「山代温泉」山中温泉と同じく奈良時代の高僧・行基により開湯したと伝わり、開湯1300年の歴史をほこります。

そんな山代温泉の中心部、総湯・古総湯の近くにあるのが「いろは草庵」。魯山人がまだ「福田大観」と名乗り活動していた若手時代(30代前半)に半年間過ごした寓居(仮住まい)で、元は山代温泉の老舗旅館『吉野屋旅館』の別宅でした。

時の大正時代のはじめ、魯山人は滋賀県・長浜の『北国街道 安藤家』の「小蘭亭」で創作活動した後に金沢の文人・細野燕台に誘われ石川県に逗留。
その細野の煎茶仲間だったのが魯山人の陶芸の師となる須田菁華と吉野屋旅館の主人・吉野治郎。彼らとも意気投合した魯山人は大正4年秋~大正5年春の半年間、山代温泉のこの別荘に逗留しながら吉野屋をはじめとする旅館の看板彫刻(刻字看板)を制作。それが認められ須田菁華の「菁華窯」で陶芸を学びます。以来作陶に熱中、後に陶芸作品も多く残した北大路魯山人の礎が築かれました。

時を経て2002年に一般公開が始まったのが「いろは庵」(※なお吉野屋旅館は平成年代に閉業され、現在は「山代温泉 総湯」へと生まれ変わっています)。アプローチ~前庭とロビーは公開にあたり新しく整備されていますが、主屋・土蔵は明治時代初期(1870年代)の建築と推定されています。

玄関から上がると北陸の古民家ならではの囲炉裏の間が。この間は魯山人と山代温泉の旦那衆の交流の場でした。そこから左手側には魯山人の仕事場、魯山人の使った机も残る書斎とお茶室が残されています。茶室を設計したのは金沢の陶芸家・原呉山。(※オリジナルは雪で倒壊し、現在は復元されたもの)

主屋と土蔵を繋ぐロビーのみ新しい空間ですが、当時から残るお庭を眺めながらお茶をサービスでいただけます。そして土蔵は魯山人の作品を中心に展示されるギャラリーとして活用されています(ギャラリーのみ撮影禁止)。

お庭について。お庭も当時から残るもので、ほぼ一面が苔むした中に青・赤・白みを帯びたカラフルな飛び石が打たれた茶庭・露地風のお庭。近隣で言うと同じ加賀市の海手側の『北前船の里資料館』や山中温泉の『芭蕉の館』等のお庭と近しい作風…なのですが、手前のササは他にはなくこのお庭のアクセントになっています。また魯山人の屏風作品のモデルになった樹齢100年超のヒバの木も。

茶室と異なり作庭者は伝わっていませんが、魯山人は金沢で出会った庭師・丸岡与三次(丸岡樹仙堂)に後に開く東京・赤坂の高級料亭『星岡茶寮』の庭園の作庭を依頼しています(→参考)。何らかの関与があるのでは…。

また前庭のアプローチは『星岡茶寮』の石畳を模したもの、また星岡茶寮から株分けされたサルスベリが植栽されていて、夏には花を咲かせます。なんにせよ名高い星岡茶寮が現存しないので、その痕跡が感じられるものがあるのが嬉しい…その傍らには魯山人の筆による《春来艸自生》の石碑が建っています。

以上、この場所は正確に言うと「吉野屋の別荘であって魯山人の別荘ではない」のですが、晩年の魯山人はこの場所を指して《山代の別荘は、どんな様子か》と吉野さんに聞いたり、また度々山代温泉に訪れ当時の仲間と旧友を深めていたそう。そんな近代の加賀の文化サロン、加賀温泉を訪れた際には立ち寄ってみて。

(2025年3月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR北陸新幹線・IRいしかわ鉄道 加賀温泉駅より路線バス「山代温泉」バス停下車 徒歩5分

〒922-0242 石川県加賀市山代温泉18-5 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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