大阪の高層ビル地区に佇む国指定重要文化財茶室の写しは中村昌生・中根庭園研究所が手掛けた現代の“市中の山居”。
中之島玄庵(中之島香雪美術館)について
「中之島香雪美術館」(なかのしまこうせつびじゅつかん)は朝日新聞社の創業者・村山龍平がコレクションした美術品を収蔵/公開する美術館『香雪美術館』(神戸市)の大阪分館。常設展示として本館では通常非公開となっている国指定重要文化財「旧村山家住宅」の茶室“玄庵”や洋館の居間の再現コーナーなどが見られます。(なお館内は“中之島玄庵”のみ撮影可能。)
神戸・御影の『香雪美術館』の庭園見学会に続いて中之島分館にもこの4月に初めて訪れました。朝日新聞創業者であり近代の数寄者でもあった村山龍平。氏についてや本館については本館の庭園の紹介をご覧ください(長いので)。
村山の雅号“香雪”を冠した香雪美術館が開館したのは1973年(昭和48年)。重要文化財を19点・重要美術品を33点所蔵し、この中之島分館が開館したのは2018年。
超高層ビルが立ち並ぶ大阪・中之島エリアの高層ビルの中に開かれた中之島分館のコンセプトは《新たな「市中の山居」の想像》。その目玉の一つとして造られたのが、「旧村山家住宅 茶室棟」として国指定重要文化財でもある茶室“玄庵”の写し。
茶道藪内流の茶人・藪内節庵から茶道を学んだ村山龍平。“玄庵”は茶道藪内流の茶室『燕庵』を特別な許可をもらい写したもので、この“中之島玄庵”はそれを更に原寸大で写したもの。本館の庭園見学会ではここまで近寄ることができないので、あわせて見るとより楽しい。
この写しの設計・監修を担当したのは茶室研究の第一人者・中村昌生、施工は京都の代表的数寄屋大工の一つ・安井杢工務店、そしてビル内に作られた露地庭は『足立美術館』で有名な中根金作の起こした中根庭園研究所の作庭。なお中村昌生さんは2018年の秋に逝去されたので、この中之島玄庵が遺作の一つに挙げられるかもしれない。
館内の常設展ではこの玄庵も含めた『旧村山家住宅』のジオラマなども展示。
…そして今回訪れた目的は玄庵よりも、この春の企画展『遠州・不昧と大名家の茶』。日本庭園史には外せない小堀遠州と、先週まで散々名前を挙げた松平不昧という2人の大名茶人を中心に、茶道石州流の祖・片桐石州、“寛永の三筆”松花堂昭乗らのゆかりの茶道具を展示。出品リストには名前がないけど宗和流の祖・金森宗和や新潟の新発田藩主・溝口氏の名前もパネルには出ていた。
正直、茶道具は見る目も知識も全く無いのですが、上で挙げた名前、大体“江戸時代に歴史的な庭園を残した人たち”。仙台藩内(大崎や気仙沼)の庭園の作庭者としてピンポイントに名前だけ覚えていた清水動閑(清水道閑)、この方に関する解説文もあって「マジか…点と点が結ばれた!」みたいな気分でした。あとこのラインナップに新発田藩主・溝口家の名があることで、新発田周辺に今なお素敵な庭園が残ることへの納得感がより深まったり。緊急事態宣言中でも開館してるのでオススメです。後期展示行かなきゃ。
このそうそうたる面々の茶道具を収集したのが村山龍平。本館の紹介で「村山龍平は(周囲と比べると)そんなガチな茶人ではなかった」と伝え聞いたことを記したけど、出典作品を見ていると「いやあめっちゃ茶道具好きじゃん」と十分感じられる。茶の湯そのものより、“歴史的な人物の道具はちゃんと所有し、残さねば”という使命感が勝っていたのなら、それはそれですごい人だ。
(2021年4月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
京阪中之島線 渡辺橋駅より徒歩3分
大阪メトロ四つ橋線 肥後橋駅より徒歩3分
京阪本線・大阪メトロ御堂筋線 淀屋橋駅より徒歩7分
JR東西線 北新地駅より徒歩8分
JR各線 大阪駅・阪急/阪神 大阪梅田駅より徒歩15分
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島3丁目2-4 フェスティバルゲートタワー・ウエスト4階 MAP