松尾大社庭園「松風苑」

Matsunoo-taisha Shrine Garden, Kyoto

昭和を代表する作庭家・重森三玲の最晩年の遺作は“京都最古級の神社”に作庭した傑作庭園“松風苑”(蓬莱の庭/曲水の庭/上古の庭)。本殿も国の重要文化財。

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松尾大社庭園「松風苑」について

「松尾大社」(まつのおたいしゃ)は京都市西京区にある、古代から信仰されている京都最古級の神社。本殿は室町時代から残る建築で国の重要文化財に指定。また境内にある庭園「松風苑」は、昭和の京都を代表する作庭家・重森三玲の作庭で、氏の最晩年の傑作の一つ。
2026年冬に久々に参拝したので改めて紹介。

京都を代表する観光地の一つ「嵐山」と世界遺産の『西芳寺』(苔寺)の間に位置する松尾大社は、京都の世界遺産『下鴨神社』『上賀茂神社』と共に“京都最古級の神社”と言われる名社。

その歴史について。その創建年代として具体的に出てくるのは飛鳥時代の終わりの701年。秦の始皇帝の子孫と称された渡来人「秦氏」の一族出身の秦都理が、松尾山の山頂近くにある“磐座”をまつった社殿を建立。尚、この“磐座”は更にそれ以前の古代より地域住民により信仰されていたとか。 伝説では、保津峡〜大堰川(保津川)を開拓し、現代にも愛でられている嵐山・亀山の景観を作ったのはこの秦氏なんだそう。平城京〜長岡京、そして平安京へと徐々に北方に遷都されてきたのも秦氏の財力・政治力の影響もあった…とか。

そんな秦氏の氏神様だった松尾大社は、特に平安時代には歴代の天皇も度々参拝。鎌倉時代以降は武家にも信仰され、源頼朝足利尊氏足利義政ら歴代の将軍、豊臣秀吉など時代の権力者により支援・保護されました。

冒頭の通り本殿は室町時代から残る古建築で、その“松尾造り”と言われる建築様式も貴重とされます。その他、拝殿、楼門、中門、そして釣殿・中門・回廊などの社殿が江戸時代の建築で京都府暫定登録文化財。建築以外では所蔵する「神像」3体が国指定重要文化財で、後述の庭園内にある「神像館」で公開されています。

そんな歴史的神社にある日本庭園「松風苑」「曲水の庭」「上古の庭」「蓬莱の庭」の3つのエリアから構成されるこのお庭は、昭和の京都の人気作庭家・重森三玲が、最晩年の1975年(昭和50年)に竣工した遺作であり、また氏の最高傑作の一つとも評されます。「日本庭園」とひとことで言っても、松尾大社が歩んできた日本の伝統——古代~平安時代~鎌倉時代と各時代の庭園様式や宗教観を踏まえながら、独特な造形で表現された“モダン日本庭園”の傑作。代名詞でもある“阿波の青石”の数は200以上、総工費は一億円!

■曲水の庭(1・5~14枚目)
奈良時代~平安時代の貴族・王朝の庭園で用いられた“曲水”を中心に、現代風に表現した庭園。
京都にはあまり当時から残る“曲水”のお庭はありませんが、奈良の『平城京左京三条二坊宮跡庭園』や平泉の『毛越寺庭園』が国宝級の“特別名勝”の庭園(もっとも前者は三玲さんの人生と入れ替わるように発掘されたお庭ですが)。その時代の“曲水”を忠実に表現した庭園が静岡県の『万葉の森公園 曲水庭園』として、それを重森三玲は極めて造形的に表現した——のがこのお庭。なおこの流れは庭園の外にある名水「亀の井」を取り入れたもの。そう考えると、この乱張り/洲浜は、亀の甲羅の造形も意識されているようにも感じます。

■上古の庭(16~20枚目)
「曲水の庭」から回廊を挟んで隣り合うのが「上古の庭」。松尾大社創建以前の「磐座信仰」を踏まえ、山と磐座を表現したのがこの石庭。その庭石は「神像館」に収められている神像(や御祭神)に見立てられたもの。上古の庭にはあじさい園も隣接!
ちなみに、神像館と葵殿との間にある石庭は重森三玲の息子で自身も造園家として活躍された重森完途の作庭。

■蓬莱の庭(22~34枚目)
場所が少し変わって、大鳥居(入口)の近くにあるのが池泉回遊式庭園「蓬莱の庭」。先の2つの庭園よりも新しい時代、鎌倉時代以降に流行した“蓬莱神仙思想”の世界観を表現した庭園。池中には蓬莱、瀛洲(えいしゅう)などが表された島々が浮かぶ。

…そんな風にモチーフは伝統なのですが、(上空写真で見るとわかりやすいのですが)その池の造形は、曲線の中に効果的に直線が用いられた、現代の“鳥のイラストやロゴマーク”のような姿になっていて。いわゆる古庭園とは一線を画し、かつ(直線と言っても)洋風庭園とも一線を画した庭園となっています。また、こちらの庭園の一角には氏の孫で現在も活躍中の重森千靑さんによる枯山水庭園が。

重森三玲の初期作品でもう一つの有名な庭園『東福寺本坊庭園』と見比べると、その成長…と言うと僭越だけれど、造園歴40年の間での「変異・変遷」が感じられるのではないでしょうか。
最後にもう一つ、松尾大社は“お酒の神様”としても信仰されている背景から『お酒の資料館』も。帰路の前に立ち寄ってみて!

(2014年7月、2016年10月、2020年5月、2026年1月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

阪急嵐山線 松尾大社駅より徒歩3分
京都駅などから路線バス「松尾大社前」バス停下車 徒歩3分

〒616-0024 京都府京都市西京区嵐山宮町3 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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