旧藏内氏庭園(旧藏内邸)

Former Kurauchi Residence Garden, Chikujo, Fukuoka

近代日本屈指の名庭園と豪邸。筑豊の炭鉱王・蔵内家の残した煎茶好みの日本庭園と和風建築。国指定名勝。

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旧蔵内邸・旧蔵内氏庭園について

「旧藏内邸」(きゅうくらうちてい)は近代に筑豊の炭鉱経営で栄えた藏内家の自邸として明治時代〜大正時代に建てられた自邸。その邸宅に面する池泉回遊式庭園が「旧藏内氏庭園」として国指定名勝、「旧蔵内家住宅」として福岡県指定建造物、また主屋・大玄関棟・大広間棟・応接間棟・座敷棟・倉・米倉・炊事場棟・中門・便所・宝蔵・茶室の12棟が国登録有形文化財。

2020年12月、北九州アウェーの後に約5年ぶりに訪れました。公共交通機関でのアクセスは良くない場所ですが、“日本の名庭園”を上位から挙げる時に忘れてはいけない庭園、そして豪邸・名建築だと思います。この5年間、それまでよりも多く各地の豪邸を見てきたけれど、5年ぶりに訪れて改めて度肝を抜かれたし蔵内邸ほどの和風豪邸は片手で数える程もあったかどうか。

中世には豊前国を治めた宇都宮氏の家臣だった蔵内家。江戸時代に帰農し、当地の庄屋をつとめた名家でした。
藏内次郎作・藏内保房・藏内次郎兵衛の三代が当主だった明治時代中頃〜昭和初期に福岡〜大分の炭鉱/鉱山の経営により材を成し、筑豊の五大炭鉱王・伊藤伝右衛門とも並び称される程に。最盛期の「藏内鉱業株式会社」は全国6位の産出高をほこり、藏内次郎作は衆議院議員も5期つとめたものの、石炭需要の減少と昭和恐慌・戦後の恐慌により古河に事業を売却し昭和中頃に解散。

そんな蔵内家最盛期に建てられたのがこの邸宅。一面田んぼの、言ったら“田舎”の風景の中にたたずむ豪邸…まず県道からの参道の長さと石橋・石鳥居がすごい(この鳥居は隣接する貴船神社のもので、その貴船神社には江戸時代の当主・藏内彌治兵衛、藏内治郎兵衛の名が刻まれた石灯籠も。

■大玄関(2〜3枚目)
まず入母屋造二重屋根の玄関がデカい!全般的には和風の邸宅なのだけど、玄関は足元に大理石が敷き詰められ、そして照明も洋風。この玄関は1920年(大正9年)に増築されたもの。

■応接間(4〜7枚目)
1887年(明治20年)にこの邸宅の最初に建てられた部屋の一つ。15畳+10畳のひろーい広間から眺める庭園は実際の奥行き以上により広く感じられ、庭園は元々はこの部屋が視点場(ビューポイント)。縁側の折上格天井や欄間の意匠にも目を引かれる!目が二つじゃ足りない!

■茶室(8〜11枚目)
応接間と座敷棟の間に位置し、庭園にせり出す形で1919年(大正8年)に増築された明るく開放的な煎茶好みの茶室。現在の外観は屋根が銅板だけど、当初は檜皮葺だったそう。

■大広間(12〜15枚目)
18畳+18畳を24畳の弓型天井の縁側で囲む蔵内邸で最大の部屋。1918年(大正7年)の増築で棟梁は豊前四郎丸の中江九壽。床の間や付け書院も大名御殿のように広く、この部屋もまた庭園を一望できる作りになっています。
蔵内家は代々煎茶を好んでいたのにちなみ、庭園を見ながらお煎茶を味わうことも(300円)。なお、茶室だけでなく庭園にも煎茶文化の影響が随所に見られるそう。

■裏庭・中庭・坪庭(16〜20枚目)
主庭以外にも割と大きな3つの中庭・裏庭があります。座敷棟に面する中庭は幾何学模様に加工された切石が用いられているところに近代を感じられるし、そしてまだ加工機材等も一般化していなかった当時は自然石よりも切石の方が“一手間掛かる”という点で高価だったんじゃないか?(=贅が尽くされた中庭)だったんじゃないかと。

■池泉回遊式庭園(21〜26枚目)
主庭は主屋・応接間棟の後、1906年(明治39年)頃に作庭されたもので、作庭を手掛けた庭師は行橋市の浦野弥平。当初のビューポイントだった応接間の正面にある枯滝石組だけでなく二連の石橋に山燈籠など、要所にアイキャッチを設けている。

でも何より水田地帯にある庭園で周囲に高い建物が全く無く、周囲の樹木が(重ねている年数の割に)高くないので、ほんとうに開放的で青空に映える庭園。この池泉も元々は田畑のための農業用水路から引き入れている(そして返している)ものなんだそう。

芝生が主体の庭園というのは他の筑豊の炭鉱王の庭園と共通しているのだけど、応接間・大広間棟や煎茶室の広さ、庭園も園路が広めに取られている点、中島も造形よりも「足を踏み入れられる」芝地が広く取られている点など…「私邸の庭園」であったと同時にかなり迎賓的な意味合いの強い(パーティーのための)庭園。(展示されてる古写真からもそれを感じる)

■茶室跡(27枚目)
お庭にももう一つ茶室があったそうで礎石だけ残ります(昭和年代に取り壊し)。

写真多すぎたのでカットしちゃったけど、茶室〜大広間に到る間にある書院造りの「座敷棟」の意匠も精巧で素晴らしかった。トイレのタイルや大理石造りのお風呂なども贅が尽くされたもので…廊下もすごくて…マジで豪邸。

あまり何かと何かを比べて「こっちが良い」と言うものではないんだけど——九州の近代以降の邸宅・庭園で公開されている中では蔵内邸が一番すごいと思う。面積で言えば一番ではないので、“建築と庭の一体感”や“周囲の景観の雄大さ”も影響してるかも…。ここだけの為でも築上町、行く価値ある。

(2015年9月、2020年12月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR日豊本線 築城駅より約6.5km(タクシーで約20分)
築城駅より路線バス・コミュニティバス「深野」「上深野」バス停より徒歩5分(本数僅少。時刻表はこちら

〒829-0115 福岡県築上郡築上町上深野396 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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