アートホテル小倉 ニュータガワ(旧豊山閣庭園)

ART HOTEL Kokura New Tagawa Garden, Kitakyushu, Fukuoka

小倉駅近にこんな庭園ホテルがあるとは…!2025年には国登録文化財(名勝)に。海外日本庭園ランキングにも選定された、近代の炭鉱王の屋敷がルーツのホテル。

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アートホテル小倉ニュータガワ庭園(旧豊山閣庭園)について

「アートホテル小倉 ニュータガワ」(あーとほてるこくらにゅーたがわ)は福岡県北九州市の玄関口・JR小倉駅から徒歩10分強/旦過市場や繁華街からも程近くに建つホテル。敷地内にある日本庭園は明治時代から残る古庭園で、この地にあった炭鉱王/貴族院議員・山本貴三郎のお屋敷内に造営/作庭されたもの。2021年、その建築の一部が「百年庭園の宿翠水(旧旅館田川離れ)」として国登録有形文化財となり、続いて2025年に庭園が『旧豊山閣庭園』(きゅうほうざんかくていえん)の名勝で国登録記念物(名勝地関係)に答申されました。

山陽新幹線・小倉駅から徒歩10分強、モノレールの旦過駅からはすぐ!2020年、2024年と二度訪れたのでそれぞれの時期に紹介。写真の通り立派な庭園があるホテルだけど、日によっては意外とリーズナブルに泊まれるんです。2021年には海外の日本庭園マガジン『The Journal of Japanese Gardening』の日本庭園ランキングで初登場、39位に名を連ねました。

その歴史について。元々は1889年(明治22年)に「豊国炭坑」の鉱主・山本貴三郎の自邸として約2,000坪の屋敷が造営されたのがその始まり。
山本の死後、1915年(大正4年)にそのお屋敷を譲り受けたのが実業家・小林徳一郎。この方の名前を一度紹介したことがあります。それは『出雲大社神苑』。元は奥出雲出身で、出稼ぎに出た北九州の鉱山・金山開発で大成功を収めた小林。故郷に錦を飾る形で大鳥居や松並木を寄進した人物…なのですが、いち出稼ぎ労働者だった小林をフックアップしたのが山本貴三郎。今回文化財の登録名となった「豊山閣」は、小林が「豊国炭鉱」「山本貴三郎」から頭文字を取って命名したもの。

戦後は小林の手を離れ、1949年(昭和24年)頃に「旅館田川」に。2018年から大手ホテルチェーン「マイステイズ・ホテル・マネジメント」(ホテル・マイステイズ)系列となり、“ホテルニュータガワ”から現ホテル名にリブランド…と名前の変遷はありますが、この地で70年間宿泊施設として/また近年はウェディングやパーティーの場として北九州市民の方にも親しまれています。

L字に建つホテルの宿泊棟の奥に位置する庭園(部屋からも見下ろし眺めることも可能。予約の際にガーデンビュールームが選べます)。最盛期の庭園の広さは2,000坪(約6,600平方メートル)の広さをほこったそうで、現在はその1/3程に縮小はしているものの(700坪)、それでも現在のホテルの敷地の半分を占めているので十分広い!

国指定文化財庭園『旧伊藤伝右衛門邸』など他の「筑豊の鉱山王」の庭園と同じく、緩やかな斜面のある芝生+池泉を主体として、マツを中心としてマキにモミジ、ツツジ、サツキなど植栽された池泉回遊式庭園。庭園のグラウンドレベルからは現在は見えないけれど、ホテル2階や客室からは標高約600mの足立山(霧が岳)が借景となっていることがわかります。

ホテル棟から向かって右手、庭園の池泉にせり出す和風建築が、同ホテルの別ブランドによる『百年庭園の宿 翠水』。「旅館田川」時代から残る昭和の近代数寄屋建築で、先述の通り2021年には庭園に先駆けて「百年庭園の宿翠水(旧旅館田川離れ)」企救/玄海/菅生/渡り廊下の4棟が国登録有形文化財に(それ以前は「松月亭」という名でした)。

メインダイニングも外観は昭和のモダン建築って感じで――庭園/離れ/このダイニングとそれぞれ時代が違う感じが個人的にはすごく好きで、緑色の銅板屋根の昭和の和風モダン建築感、北九州市にも作品を残す名建築家・村野藤吾…だったら名前が残ると思うので違うのだろうけど、その時代の名のある建築家が手掛けられたのでは?という感じがする。
ちなみに日露戦争の直後には“乃木将軍”乃木希典が当時この庭園内にあった寝殿造りの建物に泊まられそう。古い写真と比較する限りはどうやらこのメインダイニングの辺りにあったようです。

山本貴三郎さんの話に戻って。名前で調べてもこのホテル以外にはあまり情報がなく…それ以外の数少ない情報が、『麻生グループ』の百年史に載っています。
麻生太郎元総理大臣の曾祖父であり、麻生グループの創始者・麻生太吉が政界入りしたきっかけ、それが山本貴三郎の議員辞職(ちなみにその時の首相は山縣有朋という時代)。山本貴三郎が議員を辞めていなかったら政治家としての麻生家というのはなかったのかも…。

『八幡製鉄所』など近代から工業都市として栄えた北九州、「当時名を馳せた実業家の屋敷があったんじゃないかなあ」と思っていたけど、こんな小倉の駅近にあったとは——。庭園も文化財になって、今後より長く、地元の方にも観光客にも好きになって欲しい庭園!

(2020年12月、2024年8月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR山陽新幹線・鹿児島本線 小倉駅より徒歩10分
北九州モノレール 旦過駅より徒歩3分
最寄りバス停は「紺屋町」徒歩3分

〒802-0082 福岡県北九州市小倉北区古船場町3-46 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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