3年連続で年間入場者数1,000人以下…古墳時代に作庭された“最古の日本庭園”がこの先生きのこるには。国指定名勝。
城之越遺跡について
「城之越遺跡」(じょうのこしいせき)は平成年代はじめに発掘され、古墳時代の4〜5世紀(3〜400年代)に作庭されたと推定されている“最古の日本庭園”。国指定名勝&国指定史跡で、遺跡の出土品や各種資料の展示が見られる『城之越学習館』を併設します。
未訪問だった国指定名勝庭園、2022年春に初めて訪れました!伊賀鉄道への乗換が手間だな…と思っていたけど近鉄の伊賀神戸駅からも徒歩圏内だった。
1991年度(平成3年)に発掘され、1997年(平成9年)に史跡公園として整備され開園した城之越遺跡。遺跡としては「大型掘立柱建物」の遺構などを含みますが、“日本最古の庭園”と言われるのは園内西部にある“大溝祭祀遺構”と呼ばれる池泉。
3つの湧水源を活かした“流れ”を活かした流水の庭園で、この水は庭園を出た後に近隣の木津川(京都・奈良へ通ずる木津川)へと注がれます。
池の護岸には後の“洲浜”へと通ずる小ぶりの石が集積させ、中心部には大ぶりの石を使って龍やサイの頭のような…動物的なものを表現してるのかはわからないけど、石組に差をつけている。古代の人々はこの庭園を“祭祀”の場として祈りを捧げていたとか。
しかし6世紀(500年代)にはこの池泉も土に埋もれ、その上に建物が建てられるように〜そして平安時代にはその建物も消滅。土に埋もれてから約1500年後に掘り起こされる・そして「建」や「庭」の墨書を含めた出土品から当時の風景が想像されるのだからロマンある…。
詳しくは国指定文化財等データベースの解説文を。
…と、ここまでが庭園・遺跡の紹介。今回は庭園そのものよりも施設として考えさせられる点が色々あったのでそのことを書きたい。
国指定文化財の“最古の日本庭園”が、年間来場者3年連続1,000人以下という現状。
写真を見て「ん?」と思った方も居ると思うけど、今回訪れたら遺跡に現代アート(彫刻作品)が展示されていた。『大平和正展「風還元」野外プロジェクト』。
自分自身、また当サイトでは『室生山上公園芸術の森』や『モエレ沼公園』も紹介していたりするので、野外のインスタレーション、ランドアート、彫刻庭園は好きだ。今回の作品展示もとても楽しい、のだけど――
けど城之越遺跡に期待していたのはそこではなかったので結構ビックリした。池の間際にまで作品が展示された姿は“ありし日の姿を”的な国指定文化財のポリシー?(そんなの無かったらごめん)から割と逸脱しているように思えたし、本来は会期も昨年で終わっているはず…(「撤去に来られるはずなんですよねぇ」というゆるい感じで…いや、ゆるいのは好きだけど)。
庭園の講座とか聞くとやはりこの庭園は「すごいもの」として紹介されることが多いので――そのように“日本最古の庭園”と持ち上げる方々は、城之越遺跡のこの現状に気づいているのだろうか。
…でも、「そうなるのもしょうがない」と思う要因は「年間来場者が3年続けて1,000人以下」という現状。
受付で「おととし年間で300人しか来なかったから、どうにかせんとってこの展示をやって、来場者が増えた」というお話をお聞きして。「300人?桁が一つ違うのでは…?」と内心思ったんです。
で、帰って『伊賀市統計書』の<施設別観光客入込数>を見たら、確かに《2018年:713人→2019年:647人》と推移。コロナ禍前からこの数字ってことは300人はマジだったんだな…。展示のカタログの冒頭の《「日本最古の庭園」として一世を風靡した城之越遺跡だが、近年の来場者数は年間300人を割る。》は恨み節にも見える…。
年間来場者3年連続1,000人以下の“最古の日本庭園”がこの先生きのこるためには。
自分はどちらかと言えば、遺跡や古い美術品を含めた“庭園史の深み”みたいなものよりも、いち来場者として「この庭園美しい!うぇーい!」って側。
なのでカタログのご挨拶にある《普段見ることのできない客層》の来場や満足度の高さ、別のアーティストの《「私もここでやりたい」との声》という事実は本当に何よりで素晴らしいことだなあ、と思う。きっとこの“古代の祭祀の場”は制作のインスピレーションにも繋がる…。
けれどもやっぱ「ノーマルな状態で」年間500人前後じゃ少な過ぎるし厳しい。元々地元にあったものではないゆえ地元に馴染み切れていない…入場料年間10万円そこらでまあまあ広い遺跡を維持し学習館の人件費も捻出している…学習上でいくら価値あるものと言われても、この現状はキツい。
まだ自分の地元に平成年代に開園した『万葉の森公園』の方が綺麗だし来場者も多い…。果たして“国指定名勝”として“芸術上または観賞上価値が高い”に達していたのだろうか…。
せめて造園・日本史系の学部の修学旅行や屋外授業・フィールドワークの場に出来ないものでしょうか。伊賀上野まで含めれば武家や露地の庭園もあるし(後日紹介)。そういう専門的な人が来ないなら確かに別に「アート作品が展示されたまま」の方がいいわけだから…。「せっかく発掘して国指定名勝にまでしたのに、維持することの難しさ」を感じられる庭園でもあると思う。
色々書いたけれど、決して施設のディスではなく、『国指定文化財の庭園のこの現状、庭園シーンとして気づけていたんだろうか?』という投げかけ。また芝生が青くなった頃に再訪したいと思います!
(2022年3月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)