まだ隠れた名庭園がある!阪神間モダニズム屈指のお屋敷街に佇む博物館の庭園は、“東洋の化粧品王”の迎賓館に京都の“植治”七代目小川治兵衛が作庭した絶景庭園。
堀江オルゴール博物館(旧六甲太陽閣)庭園について
【庭園は春・秋に期間限定公開/完全予約制】
「堀江オルゴール博物館」(ほりえおるごーるはくぶつかん)はオルゴール専門としては日本で唯一の登録博物館。春・秋に期間限定で公開される庭園は近代京都の名庭師・七代目小川治兵衛(植治)によって大正時代に作庭されたもの。その際に外観のみ見学可能なモダン建築『旧堀江光男邸』は昭和を代表する建築家のひとり・大江宏が手掛けた『苦楽園の家』。
近代~昭和に掛けて開発が進み、“阪神間モダニズム”を代表するお屋敷街にも挙げられる「西宮七園」。そのうちの一つ「苦楽園」は大阪湾や生駒山までを望む絶景が味わえる高台部に明治時代後期に造成。かつては温泉旅館が立ち並んだ時代もあり、大隈重信や犬養毅の夫人が訪れたり、黒田子爵、土方伯爵が別荘を構え、また谷崎潤一郎、俳人・山口誓子(⇒当時の家が神戸大学に移築)、湯川秀樹博士らの文化人もこの地で暮らしました。
そんな苦楽園の中でも、芦屋市の高級住宅街「六麓荘」と隣接するちょうど市境に建つのが「堀江オルゴール博物館」。1993年(平成5年)開館(1997年に登録博物館に)。博物館の門構えも超高級住宅と言った趣なので緊張する…笑。
大阪の化学メーカー「又永化工」創業者・堀江光男がコレクションした世界のアンティークオルゴールと自動演奏楽器を所蔵する「歴史博物館」。ロシア・ロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ2世が愛用したというオルゴール、ドイツのお城にあったと言うバイオリンの自動演奏楽器など、360台超のコレクションは日本最大級。見学は完全予約制、1日に3回(10時~/13時~/15時~)学芸員の方にご案内いただけます。2011年度西宮市民文化賞受賞。
そんな“ヨーロッパの王家・貴族の文化を伝える”博物館に、七代目小川治兵衛の庭園…?一見イメージが結びつかないのですが、現在の博物館+堀江邸が建つ以前の大正時代~昭和の戦前には別の実業家による迎賓館がありました。“東洋の化粧品王”と呼ばれた実業家・中山太一(中山太陽堂/現「クラブコスメチックス」創業者)の別邸『六甲太陽閣』が1922年(大正11年)に建築。(西宮にありながら)大阪市の迎賓館としても用いられる程、阪神間の名高い迎賓館だったそう。
太陽閣の庭園の作庭を手掛けたのが七代目小川治兵衛(植治)。『舞子ホテル』が解体された今、兵庫県に残る唯一の七代目小川治兵衛の庭園ということになります。
この庭園がとにかくすごい――(語彙力…)。自然の樹木を活かし、紅葉の美しい庭園――という点では京都で見る七代目の庭園と近い所はあれど、代名詞的な“借景庭園”とはまた全くタイプが異なる。そもそも800坪の庭園の大部分は六甲山麓の傾斜地。その傾斜地を水が流れ落ち、滝を経て、苔むした園路も美しいもみじ林へと誘う。
そして高台部にありながらも立派な庭石によって景色が形作られ、“借景”とは違うけれど高台部からの眺めは絶景。
京都にも「山の傾斜を活かした植治の庭」があるけれど――そのどれともあまり似ておらずより迫力がある――傾斜のキツさと石のタイプの違いによる影響もあるけれど(金沢『辻家庭園』も傾斜を活かした植治の庭ですが、またタイプが異なる)。その傾斜面の中を巧みに園路が張り巡らされているのが楽しい。お庭の中段部、三日月窓の寄せ灯篭のある池泉付近に特に植治の庭としての特徴が残るそう。
で、更に歴史をたどると元々この地は江戸時代初期(1620年~1628年)に『大坂城』を再建する際の採石場・石切場だったそう。立派な庭石はすべてがすべてわざわざ山の上まで運んだ訳ではなく「元々この場にあったもの」。また当時からそのまま残されていた若狭小浜藩、出雲松江藩の刻印石や矢穴石もお庭に活かされています。(博物館から北側、三番町へ向かう小路沿いの林にも石切場だった時代の面影を感じさせる小川がある)
そして博物館と接続して建つ、白色のモダンな洋風建築~和館(内部は非公開)は『国立能楽堂』等の設計で知られる昭和の建築家・大江宏の設計。氏もこの庭園を見て引き受けることを決めたとか。大江宏さんは、植治をフックアップした山縣有朋の邸宅跡にも庭園と共存した作品があります(『三番町共用会議所』)。
庭園の一角には、オルゴール博物館を開いた堀江光男さんのモニュメントもあります。まだまだ出会える最高の庭園、今後の限定公開の際にぜひ訪れてみて。
(2019年11月、2024年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR神戸線 芦屋駅/阪急神戸線 夙川駅/阪神電車 芦屋駅より路線バス「苦楽園」バス停下車 徒歩8分
阪急甲陽線 苦楽園口駅より約2km(徒歩30分)
〒662-0088 兵庫県西宮市苦楽園四番町7-1 MAP