俳人・小林一茶も訪れた豪農屋敷に江戸時代中期に作庭された枯山水庭園は、四国山地の借景がダイナミックで美しい。
暁雨館(旧山中氏庭園)について
「暁雨館」(ぎょううかん)は愛媛県四国中央市立の郷土資料館。元は江戸時代に当地の庄屋をつとめた山中家の豪農屋敷だった場所で、その山中家に作庭された江戸時代中期の借景庭園が残ります。
2022年年始にいくつか愛媛県の庭園を巡った際に初鑑賞。伊予土居駅は初めて下車しました。駅から徒歩20分弱の場所にある施設だけど、すぐ隣が四国中央市の土居庁舎(旧・土居町役場庁舎)。地図で見ると「この庁舎も元々は山中家の敷地だったんだろうな…」って印象を受ける。
“暁雨館”もこの郷土資料館で初めて名付けられたのではなく、江戸時代に山中家10代目・山中時風が館に付けた名前。時風は江戸時代中期に大阪で活躍した“半時庵流(淡々流)”松木淡々に師事した俳人でもあり、かの小林一茶が四国を旅した際も暁雨館に立ち寄り親交を深めました。
施設内では山中家に伝わる史料をはじめとした四国中央市に伝わる歴史資料のほか、近藤篤山、尾埼星山、安藤正楽など当地ゆかりの人物に関する情報・史料を常設展示/企画展示。そして歴史はあんまり興味ないけど庭石が好き…って方向けには、四国山地の赤石山系の結晶片岩・緑色片岩を中心とした岩石・鉱物が一堂に会した「岩石・鉱物展示室」も。
資料館の建築自体は平成年代の2004年に開館した新しいものですが、庭園は山中家の庭園として江戸時代中期に作庭され、約300年の歴史をほこる平庭式枯山水庭園。庭園を眺めながらお茶をいただきこともできます。(建物手前の園路など一部は開館の際に手が加わっている)
なんと言っても四国山地の借景がダイナミック。現代ではすぐ裏に「農村環境改善センター」が建っていて多少なりとも景色をカットしてしまっているんだけど――縁側からこの借景が見えるよう、新しい暁雨館を建設する際に位置をここまで後ろに下げたのかな?と感じる。
建物から正面に眺めるとけっこう横長で、向かって右手側にある築山とイヌマキの高木の麓にも枯滝石組、そして正面の主木と言えそうな五葉松の裏側にも枯滝石組が。向かって左側が飛び石と祠がある回遊式庭園になっていて――ここはちょっとまた違う世界観?を感じる。
その先にある“厩門”は土佐藩の参勤交代で本陣だった庄屋・石川家から明治時代に山中邸に移築され、更に1984年(昭和59年)に現在地に再移築されたもの。もしかしたらこの飛び石エリアはその時に改修されたものかな。ちなみにその本陣の御殿は愛知県豊田市に移築されたのだとか。現存するのかな。また庭園には地元・四国中央市の三木造園、石村庭園、伊藤庭石建設から寄贈された石碑も。
今回は見頃な花がない時期に訪れてしまったけど、紅葉時期やサツキの刈込たちが花を咲かす晩春に訪れたらきっとカラフルな姿を見られるはず!
そして伝えたいのが――庭園にしても展示にしても、決して“映える”場所ではないんだけど――地元の偉人ごとのプリントや、庭園紹介のプリント、そして「地元の新聞に載りました!」みたいな広報と、すーーっごく運営/学芸員さんが頑張ってる感じが伝わってくる施設で。
学芸員の仕事と言っても地方の小さな郷土博物館からみんな知ってる大型美術館までピンキリなんだろうなーと思うけど、こういう「“伝えようとしている”ことが伝わる」施設は応援したくなる。
(2022年1月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)