重森三玲の遺作となった枯山水庭園“愛染庭”をはじめ、宿坊全体で重森作品を味わえる集大成・最高傑作の一つ。
福智院庭園 愛染庭・遊仙庭・登仙庭について
【庭園のみ拝観は不可】
「福智院」(ふくちいん)は高野山真言宗の別格本山の寺院で、高野山内で唯一天然温泉のある宿坊。重森三玲が最晩年に手掛け遺作となった枯山水庭園“愛染庭”と“遊仙庭”に池泉庭園“登仙庭”があります。
高野山内には国登録記念物(名勝地)となっている『正智院庭園』や『西禅院庭園』など重森三玲の素晴らしい庭園が数多く残りますが、最晩年に手掛けられている点や名もなき坪庭でも重森庭園が味わえる点など、重森三玲の最高傑作の一つに挙げられそう。
2020年6月、約1年ぶりの高野山へ目的はこちらの宿坊に泊まること。往時は訪日客に大人気の高野山の宿坊ですが、COVID-19の影響でその数は当然ながら激減。ふつうのホテルと異なり別に「だから安くなってる」とかではありませんが…、京都での『こんな時だから、住んでる町のホテル、旅館、ゲストハウスに泊まりたい』と同じ考えで、いつか泊まりたいと思っていたこの宿坊に初めて宿泊しに伺いました。
福智院は約800年前(鎌倉時代?)に覚印阿闍梨により金剛峯寺の塔頭寺院として創建。庭園以外の寺院としての解説があまりないのですが、登仙庭をのぞむ中央大ロビーには彦根藩主・井伊家ゆかりの品々はじめ多くの美術品が展示されています。
なお、御本尊・愛染明王のまつられている本堂へお参りすることができるのは朝6時からの勤行の時のみ。今回は残念ながら…起きられず…。
そして宿泊中は前庭・中庭として重森三玲が1973〜1975年(昭和48〜50年)にかけて手掛けた“愛染庭”、“遊仙庭”、“登仙庭”が見られます。
同時並行で作庭された大規模な庭園が京都『松尾大社庭園』。同じく複数の庭園の庭園が表現されている点で、“集大成”の一つ。今回ちょうどサツキの花がピークに近い時に訪れたので、サツキの刈込主体の庭園が一層美しく!
■愛染庭(1〜10枚目)
前庭の愛染庭(あいぜんてい)は福智院の中で最後に完成した枯山水庭園。愛染明王がまつられている本堂前庭にあたり、枯山水の中にも色んな手が加えられています。重森三玲らしい数多くの立石に、延段・敷石の直線的な意匠、光悦寺垣、そして白砂の中央に青の色砂を直線的に敷いている点。そして奥のモダンな市松模様。
『漢陽寺庭園』や松尾大社で「日本庭園の各年代の日本庭園の様式を意識されていた」ことを思い返すと、この庭園はなんかやりたいこと全部詰め込みました感。なお、この庭園は三玲の没後に完成、遺作にあたる庭園です。
■蓮菜遊仙庭(12〜17枚目)
古代中国の伝説に記される不老不死の仙人が棲む理想郷・蓬莱島を15の石組で表現した枯山水庭園。
石組やその曲線的な洲浜がこの庭園の主役なんだけれど、個人的にこの庭園および福智院で全体的にかっこいいなー、凝ってるなーと思うのは、敷石。ここまで真っ赤の目地+真黒石の延段、重森作品の中でもあまり見たことない気がするんだよな(赤みがかったモルタルはままあるけど、まぐろ石との組み合わせが珍しい?)。この赤味も多少色褪せると思うので、色を入れ直したりしてるのかもしれないけど…。
そしてこの遊仙庭のすぐ近くにある坪庭(18枚目)。これが名もなき坪庭なんだけどめちゃめちゃかっこいい!
■登仙庭(19〜28枚目)
元あった昭和初期に作庭された池泉庭園を改修する形で作庭された池泉鑑賞式庭園。『松尾大社』の曲水の庭のようにサツキの大刈込を活かしながら鶴島・亀島を設けているところは“歴史的な庭園”の手法を取り入れつつ、池泉の護岸・敷石や左上の方の立石による滝石組のデザインは現代風になっています。
あと茶室前の全く遮蔽する気がない竹垣のデザインもめちゃくちゃ気になる!
これらの庭園は夜間にはライトアップも。コウヤマキ造りで香りの良い浴槽につかった後、湯冷ましはライトアップされた重森三玲の庭園を眺められる贅沢。次回は1日1部屋限定の登仙庭のガーデンビュールームに泊まりたい!
(2020年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)