桜や紅葉時期には特別公開も!京都・大坂の文化人も多数訪れた江戸時代の大庄屋屋敷…建築は国登録有形文化財、庭園も国登録名勝に。
旧中西家住宅(旧中西氏庭園)/吹田吉志部文人墨客迎賓館について
【見学は前日までに要予約】
「旧中西家住宅」(きゅうなかにしけじゅうたく)は大阪・吹田市のJR岸辺駅北口から徒歩6分と程近くに残るお屋敷。江戸時代後期の主屋をはじめ7棟が国登録有形文化財/9棟が吹田市指定文化財、庭園も「旧中西氏庭園」として国登録記念物(名勝地)。また『吹田吉志部文人墨客迎賓館』の名で吹田市の和の迎賓館としても活用されています。
見学は無料ですが前日までに要予約で、水・土・日曜日は庭園と建築内部の公開。火・木・金曜日は庭園のみの公開。また桜や紅葉が見頃を迎える4月・11月にはそれ以外にも特別公開が行われます。詳しくは公式サイトをご覧ください。2022年10月、約5年ぶりに見学に訪れました。
同じく吹田市の『旧西尾家住宅』の時にも近しいことを書いたけれど、京の都と“天下の台所”大坂の道中には京都の文化人とも繋がりや影響があった方のお屋敷が残されている。
国立循環器病研究センターの移転や「カンデオホテルズ」の入る複合商業施設「VIERRA岸辺健都」など開発が進むJR岸辺駅前。江戸時代のこの一帯は吉志部東村という京都・淀藩の領地でした。
初代は豊臣方として大坂夏の陣にも参戦したと伝わる中西家。その後の江戸時代には当地の大庄屋をつとめ、淀藩が経営に行き詰まった際には藩主・稲葉家は中西家に借金する程の関係性だったとか。
文化的なパトロンでもあった中西家には多くの文化人/芸術家/文人墨客が訪れました。“犬”の絵が有名な画家・長澤芦雪、江戸後期を代表する儒学者/歴史家・頼山陽、京都画壇/大坂画壇で活躍した画家・長山孔寅、森周仙、月岡雪鼎など。
中でも中西家の“煎茶好み”が垣間見える建築にも影響を与えているのが京都の黄檗宗大本山『萬福寺』の僧で“煎茶中興の祖”売茶翁。主屋には氏の筆による“萬歳樓”を写した額が掲げられています。
江戸時代の人物のみならず近現代に活躍されている竹工芸家・田辺竹雲斎の作品も残されているなど現代まで名士だった中西家。
2007年に「文化財を吹田市のために役立てたい」という御厚志によりお屋敷・庭園+所蔵していた美術工芸品・調度品が吹田市に寄贈。以来、吹田市立の施設として一般公開されています。
江戸後期の儒学者/漢詩人・広瀬旭荘が《其宅華麗 殆類侯居》(華麗で、諸侯が住まう家のようだ)と賞賛した中西家。約1,000坪の中に建つ主屋/長屋門/米蔵/土蔵/勘定部屋棟/キザラ(木小屋)が江戸時代後期の建築、井戸屋/納屋が明治時代の建築でいずれも文化財に指定/登録されています。
…これだけ書くと「古さ」だけがクローズアップされてしまうのだけど、2000年代まで中西家の現役の住宅だったので、一部が『和モダン』にリノベーションされているところが実はすごく良い…!
見学の順序は後半になるけど、農家の大きな梁を残しながらイタリアから取り寄せた大理石を見せているダイニング・キッチンがめちゃくちゃかっこいいので「古民家リノベーション」とかに取り組む方にもぜひ見てほしいな…。
建築も含む公開では1時間強に渡りボランティアガイドの方にご説明いただきながらの見学。
その順番通りに言うと、まずは受付からすぐの場所にある“東の庭園”。これが一風変わった庭園で、堀の周囲を春は桜、夏には百日紅、秋には紅葉と四季の花木が彩る庭園で——堀の中に降りることはできないのですが、かつては「この堀の中から花々を見上げて《深山幽谷》な景を楽しむ」ためにこのような構造に。旧中西家の庭園の中で“石組”が最も見応えあるのも実はこのあたり。
そして庭門をくぐると現れる腰掛待合〜茶室“喜雨庵”と、その露地庭を中心とした“西の庭園”。こちらも歴史を感じる庭園で、“離れ”の前で渡されている青石一枚の石橋や大きな沓脱石がお屋敷の格式の高さを物語る。
茶室“喜雨庵”の額を書いたのは『大徳寺 高桐院』の僧で、前述の売茶翁だけでなく京都の有力者との繋がりも感じられる。なお11月後半の特別公開の際は通常は歩けない茶室〜露地のルートもご案内いただけるとか。
ちなみに、前回訪れた時は2018年の大阪北部地震の前。改めてその地震の後の様子を伺うと、やはり地震で庭園の灯籠なども倒れて一部損壊したものもあったとか。確かによく見るとモルタルで修復した様子なども見える。(せっかく修復いただいたのだから、もっと多くの人に見てほしい…)
なおここまでが幕末〜明治時代半ば頃までに作庭された庭園。
最後に、もう一つの庭園が主屋の前庭の枯山水庭園。こちらは実は割と最近(現代)に作庭されたもので、作者はこのお屋敷を寄贈した中西家のご当主(先代)。
自ら四国から取り寄せた紫雲石の石組と京都の白川砂を取り寄せ、さまざまな日本庭園を見て作られたのだとか。9つの石は神仙思想…とかではなく、“中西家のご家族”がテーマなんだとか!言われなかったらきっと深く考察してしまいそうだけど(笑)、そんなテーマも良い!
主屋の中ではお屋敷とともに様々な美術工芸品や歴史的なアイテムを鑑賞することができます。冒頭近くにも書いた通り、ところどころリノベーションされている姿も見所で、“近代〜現代の特注家具”とかも残されていたりして意外とモダン。
2022年11月後半の特別公開ではこの期間だけの展示品、通常非公開の離れ座敷の襖絵や茶室内部も鑑賞できるとのこと。近畿の庭園・建築・美術ファンの方はぜひ訪れてみて。
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テレビ大阪の大阪ローカル情報サイト『大阪てくてく ごきげんさんぽ』の連載でも紹介させていただきました!
(2017年8月、2022年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)