金沢市街を一望。加賀藩家老・横山家の国登録有形文化財の別荘と、京都・七代目小川治兵衛(植治)による名庭園。
辻家庭園(前田家家老旧横山家迎賓館)について
「辻家庭園」(つじけていえん)は加賀藩家老・横山家が近代に造営した別荘兼迎賓館。主屋・表門・塀が国登録有形文化財であるほか、近代の日本/京都を代表する作庭家・七代目小川治兵衛(植治)が北陸地方で作庭した貴重な庭園が金沢市指定名勝となっています。
2019年春に初めて訪れて感動し、2021年6月に再訪!現在は主に結婚式場やレストランとして活用/運営されており、その予約がない&季節に応じた営業時間内で庭園のみの見学も可能。土日祝はほぼ結婚式が入っているようなので、平日の訪問がオススメです(それも事前の電話確認推奨)。
城下町・金沢の中心部からは少し外れ、国の重要伝統的建造物群保存地区「金沢市寺町台」から程近くの犀川を見下ろす高台にある辻家庭園。当初は旧加賀藩家老・横山男爵家の別邸として、現代の価値に換算すると約40億円もの巨額を投じて大正時代に造営されました。
加賀藩の重臣“加賀八家”にも名を連ねていた横山家。明治維新後に没落する武家も少なくない中、横山家13代目当主・横山隆平とその弟・横山隆興は鉱山経営に乗り出しこれが大当たり。
薩摩藩・島津家らと並んで“三大鉱山華族”や“北陸の鉱山王”と呼ばれる程になり、隆平の息子・横山隆俊も鉱山経営を拡大したほか鉄道や銀行経営などに事業を広げ財を成しました。近代にはここ以外にも京都・南禅寺界隈にも別荘を造営しています。
現在も6,600平方メートルという敷地面積をもつ辻家庭園ですが、当初は数倍~兼六園に負けず劣らずという広さだったとか…。
寺町台から犀川への斜面も活かした回遊式庭園がその大部分を占め、その中には七代目小川治兵衛(植治)が手掛けた5.5メートルの“大滝”も。庭石も伊予の青石をはじめ日本全国から集められた名石・巨石が用いられていて、中でも大滝には富士山の溶岩石が使われている、正に贅が尽くされた庭園。
そして当初の大規模な庭園には季節ごとの庭園があったそうで、その中で現在残っている庭園は主に“秋の庭園”――ということで、斜面にはモミジやドウダンツツジが多く植わっており、秋には真っ赤な姿を見せてくれそう。
主屋のある高台部からは市街地や卯辰山の風景が素晴らしい。金沢には数多く庭園が残りますが、このような眺望を持つのは『兼六園』とここだけ。そして主屋は和の意匠+コバルトブルーに塗られた“群青の間”や“離れ”も超良い。
戦後“辻家”の所有となった後に庭園も主屋も一部改修を経ており、ブライダルでの活用にあたって2013年にリノベーションされた際に変わったところもあるのだろうけど(その際は京都の久保造園が入られたそう)、名園揃いの金沢市内の中でも屈指の日本庭園であることに変わりはない。
なお横山家は本邸が21世紀美術館の近隣に残ります(非公開)。関西で七代目小川治兵衛と幾つかの庭園を手掛けている茶人・三代目木津宗詮こと木津聿斎は『横山男爵邸内茶室』を手掛けていたそうなので、それは本邸の中にあるのかもしれない(※辻家庭園には茶室は残っていない)。
※あとここのパンフレットに東京『椿山荘庭園』も小川治兵衛が手掛けたとあるのですが、この情報はここにしか無い情報……。造園史家・鈴木誠さん、粟野隆さんによる研究論文『山縣有朋の庭園観と椿山荘』の冒頭に“植治と出会う以前に造営した椿山荘庭園”とあるので、京都の山縣有朋別邸『無鄰菴庭園』とごっちゃになってるのかも。
(2019年3月、2021年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR北陸新幹線 金沢駅より約4km(市内各所にレンタサイクルあり)
北陸鉄道石川線 野町駅より徒歩約20分
金沢駅より路線バス「寺町一丁目」バス停下車徒歩3分
〒921-8033 石川県金沢市寺町1丁目8-48 MAP