近代日本を代表する建築家・ヴォーリズ設計の校舎の校庭は、“鈍穴流”花文と戸野琢磨の作庭。国登録有形文化財。
豊郷小学校旧校舎群・前庭について
「豊郷小学校旧校舎群」(とよさとしょうがっこうきゅうこうしゃぐん)は近代の日本で数多くの西洋建築を残した建築家:ウィリアム・メレル・ヴォーリズが昭和初期に設計を手掛けた建築。敷地内にある「旧豊郷小学校校舎」「旧豊郷小学校講堂」「旧豊郷小学校酬徳記念図書館」が国登録有形文化財。またこの3棟から少々離れた場にある明治時代の初代校舎「旧豊郷尋常高等小学校本館」も同じく国登文。
ヴォーリズ建築として、そしてアニメ『けいおん!』の聖地として有名な旧豊郷小学校――元々その知識で訪れたことがあったのですが。近江五箇荘を拠点に滋賀・京都で数多くの日本庭園を作庭している「花文」の歴史をまとめた書籍『秘伝・鈍穴流「花文」の庭』を見ていたら、この校庭も花文が手掛けていた!ということで庭園目線で紹介します。
旧中山道に面した白亜の近代建築、“東洋一の小学校”とも評された旧校舎が建築されたのは1937年(昭和12年)。同じく旧中山道に面する『伊藤忠兵衛記念館』の中で、現代の日本を代表する総合商社「伊藤忠商事」「丸紅」の創業地が豊郷町ということを書きましたが、この校舎を寄贈したのは当時の丸紅の専務取締役であり伊藤忠兵衛の甥・古川鉄治郎。
現在の豊郷小学校は旧校舎群の向かいの新校舎に移転し、耐震工事後の2009年(平成21年)より町の図書館などが入った複合施設として一般公開を開始。校内では『けいおん!』ファンによる、ファンのためのメッセージボードやグッズ展示がある一方で、ヴォーリズ設計時の図面や模型なども展示されています。
そしてその前庭(校庭)について。施工を手掛けたのは近江五箇荘の花文造園、設計は戸野建築造園事務所・戸野琢磨が担当。
戸野琢磨さんの名前を書くのは初めてですが、造園分野では日本人で初めてアメリカの大学で学位を取得したという近代日本のランドスケープアーキテクトのパイオニアのひとり。最も有名な海外の日本庭園“Portland Japanese Garden”の作庭者であり、個人的に最も足を運んだことがある場所では静岡県掛川市の谷口吉生建築『資生堂アートハウス』のランドスケープも担当。京都では御所西の『大丸ヴィラ』でもヴォーリズとタッグを組んでいます。
江戸時代から続く伝統的な作庭流派“鈍穴流”の花文が、そのような日本の洋風庭園の先駆者のひとりに選ばれて洋風庭園を手掛けていた――という造園家同士の繋がりも興味深い。
安土のヴォーリズ建築『旧伊庭家住宅』も訪れた当時「あ~和風庭園あるな~」ぐらいの薄い感じにしか思っていなかったけど、今見ると沓脱石かっこいいし、当時の関西の有力造園家が関わっていたのかもな…と思えてきた。
しかし近代の日本を代表するお雇い外国人の建築であっても、一時は自治体の主導で取り壊しの危機に(詳しくはWikiを)。文化的なものを残すのは難しい。“観光立国”の宣言がもっと早かったらまた違ったのだろうけど…教育面において、「おもてなしの心」とか道徳的なことだけでなく、“歴史的なプロダクトには取り戻せない価値がある”というのも伝えていかなければいけないのでは。(文化的なもの=だいたいお金がかかるので、一長一短なのも難しい所だけど)
余談。友人に『けいおん!』オタが居て、まあでもさすがに今年は来れないだろうな、なんて思いながら今回旧校舎群を歩いてたのですが。校舎内でバッタリ会ってビックリした(笑)「校庭の作庭者が分かったから来た」とかいう自分も大概なんです。
(2016年12月、2019年3月、2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)