2024年秋の京都で観るべき庭園第一位…これまで非公開の“南禅寺界隈別荘群”の庭園が一般公開開始!国重要文化財の建築と七代目小川治兵衛作庭庭園。
對龍山荘庭園について
【不定期公開/公開日時は公式サイトから確認】
「對龍山荘」(たいりゅうさんそう)は京都を代表する禅寺『南禅寺』の周辺に近代以降に造営された「南禅寺界隈別荘群」の代表的な建築/庭園。近代京都を代表する庭師・七代目小川治兵衛(植治)が作庭した庭園が国指定名勝(国指定文化財)、2024年にはその建築(主屋/表門/南土蔵/北土蔵の4棟)も国指定重要文化財となりました。
紅葉の名所としても人気の『南禅寺』の参道には参拝客向けの料亭/旅館と共に、「南禅寺界隈別荘群」と呼ばれるお屋敷群があります。その多くはまだ現役の別荘のため非公開、一部は料亭・旅館等として活用されていますが(利用者のみ鑑賞可な場合も)、これまでは広く一般公開されているのは『無鄰菴』のみでした。
そんな「南禅寺界隈別荘群」中でもかねてから“最高傑作の一つ”として名高かったのが「對龍山荘」。客観的な指標として「文化財」としての評価で言うと、数ある京都の庭園の中でも「京都の個人邸」「明治時代以降の京都のお庭」の中では無鄰菴・清風荘に次ぐ三番目の速さで国指定文化財となっています。
これまで旅行会社の高価格帯のツアー等での公開はされていましたが、現・所有者「ニトリホールディングス」の“広く多くの方に見ていただきたい”という想いの下で、2024年9月より庭園の一般公開が始まりました!(※9月は予約制でしたが、10月からは予約無しで見学可)
毎日公開ではないので、開園日/営業日は公式サイトよりご確認ください。
その歴史について。南禅寺の塔頭寺院跡地に別荘群が築かれ始めたのは明治時代中期~。国宝級庭園のある『金地院』の西隣にこのお屋敷が造営されたのは1896年~1899年(明治29年~32年)、当初の施主は薩摩藩出身の実業家・伊集院兼常でした。
ちなみに伊集院兼常は京都の中心部に近い高瀬川二条にも別荘を築いています(『廣誠院』※通常非公開)が、こちらもすぐ傍に『無鄰菴』山縣有朋の旧別邸があります(『がんこ高瀬川二条苑』)。
造営後まもなく、京呉服商・市田弥一郎の所有に。「近江商人のまち」近江五個荘を拠点に、東京/京都を主な商圏とした市田家(後に市田株式会社は東証二部上場)。ちなみに、對龍山荘のすぐお向かいのレストラン『南禅寺 菊水』さんもかつては近江商人・外村宇兵衛の別荘。人同士の繋がりも感じられます。
建築・庭園ともベースは伊集院兼常の時代に形作られ、市田弥一郎の時代に大滝のある池泉庭園と、池にせり出す「對龍台」と名付けれた懸造り建築、二階建ての居間棟が造営されました。對龍台など手掛けたのは当代随一と評された東京の大工棟梁・島田藤吉(島藤)。庭園のみの見学の際は建物内部の様子を伺えませんが、對龍台からは庭園の奥にそびえる東山の借景がより迫力をもって体感できる…!
なお、『對龍(対龍)山荘』の名は、借景の東山山系“瑞龍山”の対という意味が込められています。
順路に沿って。庭園の序盤は、東山の借景と大滝の姿が見事な池泉回遊式庭園。腰掛待合(待月亭)のある西側からはそのスケールの大きな姿や水車を眺め、池の北側の園路を歩くと「對龍台」の足元で水が流れ落ち、庭と建築が一体化した“庭屋一如”な姿をのぞむことができます。
そんな優雅な庭園の景を体感したかと思えば、池の奥の水車の先にはかつて菜園として用いられていた空間が(現在は花菖蒲園)。水田(棚田)を庭園の景に取り込んだ『修学院離宮』の様に、非日常だけでなく日常風景を庭園の一部に。
苔と紅葉、芝生が美しく調和したエリアを通り過ぎ、居間棟から眺められる芝生の緩やかな斜面の中に小川が流れるエリアへ。一言「芝生」と言っても、低く保たれたサツキの刈り込みに立派なマツ、秋を知らせるススキに野花…と小川治兵衛や現在出入りしている庭師さんの《無作為の作為》のテクニックが伝わってくるエリア。
そんな居間棟の脇から茶庭(露地)風のお庭へとまた景色が変わり、建築当初からある茶室「聚遠亭」や、水の湧き出る“流れつくばい”を眺めつつ、先の流れからの水が大池へと注がれる風景を見る…。
序盤の池泉だけでも界隈随一の「優雅さ」はありますが、この景色・局面の移り変わり、水を通じたストーリー性…的なものが、対龍山荘がこれだけ高く評価されている由縁!広く公開してくれて「ほんまありがとう」の一言しかない…。
で、庭園のプロの方々にとっては「名高い」この庭園ですが、公開が始まったばかりということで実はまだかなり穴場な状況…!タイミングによっては、この空間を独り占め出来てしまいます…本来は、億万長者にしか許されない状況……ほんまええんか……?人気が出る前に、お早めに。
なお見学の際はガイドスタッフの方にも庭園や建物の説明をしていただけますので、ぜひ長めの時間この京都の別荘庭園を堪能して。
(2021年11月、2024年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)