昭和美術館・南山寿荘庭園

Showa Museum Garden, Nagoya, Aichi

名古屋の名建築に推薦!裏千家十一代・千宗室(玄々斎)と尾張藩家老・渡辺又日庵による数寄屋建築/茶室と庭園。愛知県指定文化財。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

昭和美術館・南山寿荘庭園について

【夏季・冬季は休館/南山寿荘は11月3日に特別公開】
「昭和美術館」(しょうわびじゅつかん)は名古屋市の中心から南東部、昭和区にある私設美術館。「万葉集(紀州本)」などの国指定重要文化財や重要美術品を含むコレクションのほか、愛知県指定有形文化財の和風建築『南山寿荘』(旧渡辺家書院及び茶室)を中心とした日本庭園があります。

日本建築の名作として名前が挙がる機会の多い、名古屋の料亭『八勝館』。そんな八勝館から徒歩20分の場所にあるこの美術館にも、負けず劣らずの素晴らしい和風建築があります!
それが「南山寿荘」。普段は庭園から外観を眺めるのみで、その独特な外観もとってもカッコいいのですが、毎年11月3日(文化の日)に建築内部の特別公開があります。2024年に内部公開に訪れたのでその際の写真を追加して改めて紹介。

1978年(昭和53年)に開館した昭和美術館。設立者の後藤幸三とその父・後藤安太郎がコレクションした書画や茶道具など約800点を所蔵、年3回季節ごとの企画展が開催されています。冒頭にも書いた通りコレクションには国指定重要文化財4点や数点の重要美術品も。

後藤家は元は岐阜県海津市の百姓でしたが、後藤安太郎は実業家として不動産・米相場・株などで一代を財を成し、名鉄の前身のひとつ「愛知電気鉄道」の経営にも関わりました。
その後を継いだ後藤幸三が「父や自分が収集した美術品を多くの人に見ていただく」ことを目的に設立されたのが昭和美術館。現在は公益財団法人後藤報恩会により運営されています。

約2200坪の敷地内、煉瓦造り風の本館の先には和風建築が点在する池泉回遊式庭園が広がります。最も大きな建物がかつての後藤家の主屋「南山寿荘」。写真で見ても「かっこよさそうな和風建築だな」と思っていたけど、目の当たりにして…その存在感がすごすぎた…!

一見、近代の茶人・数寄者が好んだ“近代和風建築”のたたずまいなのだけど、元は江戸時代後期の1832年(天保3年)に尾張藩家老・渡辺規綱(又日庵)が尾頭坂の別邸内に建てた書院建築。この渡辺規綱は尾張の著名な武家茶人であり、裏千家11代家元・玄々斎の実の兄でもありました。(尚、『豊田市美術館』の敷地内にも又日庵が設計したと言われている“又日亭”が移築されています。)

近代に入りこの書院・茶室を後藤家が譲り受け、1935年(昭和10年)に現在地に移築、晩年の住まいとしました。
斜面の上にそびえ建つその姿は3階建のような迫力があり、玄関はまた別の飛騨の古民家の部材を用い、ナグリのある木の床が独特な、“和洋+田舎家”が組み合わさった「近代の別荘建築」という雰囲気なので移築時の創作も結構あるようですが。

特徴的なのは、箱の上にもう一つ箱を乗せたかのように、2階部分が別方向を向いていること。こんなデザインの数寄屋風建築はあまり見たことがないし、これは近代の創作ではなくオリジナルなのだそう。正確に言うと、斜めっているのは2階ではなく1階部分。1階部分の飛び出ている数寄屋建築が茶室「捻駕籠の席」。ねじれたカゴのようなそのデザインがそのまま名前になっている。(藤井厚二建築で国指定重要文化財の『香雪美術館』の和館の外観が近い雰囲気ではある)

2階の書院は玄々斎によるデザイン。こちらも大きな床の間が特徴的で——表現している事やスケールが、江戸時代・武家→古風、って感じじゃなく、とっても近代的でモダンなんです。

庭園について。こちらは旧渡辺家書院・茶室の移築に伴って作庭されたものなので昭和前期の池泉回遊式庭園。
主役はやはり捻駕籠の席。元々、この茶室は窓から熱田・堀川東岸の川湊を見下ろす開放的な場所に建っていたそう。元の風情を再現する為にここでも池泉を中心とした庭園が作庭されました。いわゆる“池泉回遊式の日本庭園”と比べると、池の中に要素があまり盛り込まれていないシンプルな“池”なのですが、それは元々の河川(運河)が意識されたもの(なのだと思う)。

池泉そのものはシンプルでも、庭園全体で見ると勿論作り込まれていて——捻駕籠の席を含む主屋や、同じく昭和年代に移築された茶室「有合庵」、腰掛待合(いずれも名古屋市の認定地域建造物資産)を回遊する為の園路は全体が“茶庭・露地庭園”といった趣き。

また名古屋の都会(の住宅街ど真ん中)にありながら自然の中に来たような植栽で、春には青もみじ/新緑がきれいで、秋にはきっと紅葉が格別に美しいはず…。(都会にありながらこの自然の感じが素晴らしい!!)

たとえば「名古屋の名建築」と言って、近代建築・モダニズム建築・現代建築の名が挙がることがあっても、『南山寿荘』の名が挙がることは少ないのでは…(八勝館は挙がっても)。なんだけど、この南山寿荘はそこに名が挙がらないのは勿体ない、紛れもない『名古屋の名建築』だと思う。

なお「捻駕籠の席」は文化の日以外に特別公開イベントが設定されることも。気になる方は公式サイトとSNSをチェック!

(2022年4月、2024年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

名古屋市営地下鉄 鶴舞線 いりなか駅より徒歩11分
JR金山駅・地下鉄 桜山駅・地下鉄 八事駅より路線バス「石川橋」「上山町」バス停下車 徒歩4分

〒466-0837 愛知県名古屋市昭和区汐見町4-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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