東京都心部にこんな苔庭があったのか――建築家・矢部又吉が手がけた洋風近代住宅に2022年まで存在した庭園。国登録有形文化財。
島薗家住宅について
【通常非公開】
「島薗家住宅」(しまぞのけじゅうたく)は東京メトロ・千駄木駅から程近くにある昭和初期に建築された国登録有形文化財の近代住宅。
団子坂またはかつて大名屋敷の庭園だった『須藤公園』の坂を登り、東京都指定名勝の庭園『旧安田楠雄邸庭園』へ向かう道すがらに目に入るレトロな洋風建築。通常非公開ですが、2022年のGW前半に特別公開が実施されました。
この特別公開は2年ぶり。道路から「ここも文化財なのかぁ」と外観を見てたことはあったけど、以前から特別公開があったのか――しかしながら、今回の特別公開をもって、洋館の奥にあった和館とその前に広がる和風庭園は解体されることに。
今回が見納めになってしまったけれど、東京の隠れた近代日本庭園を記録、紹介したく思います。(*SNS/非商用であればOKとのことでした)
江戸時代には“徳川御三家”の一つ・紀州徳川家が治めた紀州藩(和歌山藩)の藩医をつとめた家系だった島薗家。東京帝国大学(現・東京大学)の名誉教授にもなった医学博士・島薗順次郎が長男の結婚を機に1932年(昭和7年)に建築されたこの邸宅。その長男・島薗順雄も医学博士でした。
建築の設計は『川崎銀行』の銀行建築を数多く手がけた矢部又吉。その9年後、1941年(昭和16年)に古賀一郎により洋館2階部分が増築されました。
洋館1階の洋風に統一された意匠を頭に入れて2階に上がると、美しいステンドグラスがある傍に数寄屋風の和室が急にバシッとはめられてて驚く。仏壇には“病気平癒”の仏様・薬師如来像が安置された、和洋折衷の空間…。
洋館の奥にあるのが平屋建ての和館。東京においては貴重な戦前の日本建築であり、もてなしや稽古の場として大切にされてきたそうですが残念ながら今回の公開を機に取り壊しとなるそう。
洋館のサンルームと和館の2方向から眺められる庭園。まず驚いたのが、この東京都心にこんな苔が主体の庭園があったのか…!ということ。
機能性やサンルームとの雰囲気を照らし合わせれば芝生でも良さそうなのに、苔と飛び石で茶庭らしい雰囲気を作っているのが施主のこだわりを感じる点で…雰囲気が近いなと思ったのは『林芙美子記念館』の庭園。好き。
考えてみると、“大名”“伯爵”“財閥”クラスではない、戦前の古い住宅の庭園って山手線内に絞るとそんなに比較例が多くなくって…(林芙美子邸も山手線圏外)、場所が近い所では『横山大観旧宅』、『朝倉彫塑館』、『子規庵』とかはそれにあたるのかな。前二者は国指定名勝だと考えると、(そこまでではなくても)この庭も歴史的な価値があった庭園…だったのかも。
それでも保存の優先順位を考えた時、和館や庭園の順位が下がることもすごく理解できるし、きっと訪れていた人のニーズもそうだと思う。島薗家はこの洋館を、このエリアの庭園としては『旧安田楠雄邸庭園』の存在をもっと知ってもらえたらいいな。
(2022年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
東京メトロ千代田線 千駄木駅より徒歩4分
東京メトロ南北線 本駒込駅より徒歩11分
JR山手線 日暮里駅・西日暮里駅より徒歩14分
〒113-0022 東京都文京区千駄木3丁目3-3 MAP